「あれ、マルコ。何処に行ってたの。」
そわそわと落ち着きなく売り場の中を歩むマルコを発見したジョゼが小走りで彼の元へと近寄る。
場所が場所なだけに、声をかけられただけでマルコの心拍数は大幅に上昇してしまった。
「ちょ、ちょっと………ね。」
ジョゼと目が合わせられず、横に置いてあった商品の値札を眺めながら答える。
……………げ。布の面積少ない癖して水着って結構いかついお値段するんだなあ。
「ジョゼの方はどう?もう買うものは決まったの?」
マルコの質問に、ジョゼはほうと溜め息を吐いて首を横に振る。
「………これだけ量が多いと、選ぶのも中々大変………。」
そう言いながら彼女はラックの中から一着の白い水着を取り出して眺めては、再び溜め息を吐いた。
「ああそれ、中々良いんじゃないのか。君に似合いそうだよ。」
ラックへと戻そうとするジョゼの腕を掴みながらマルコが言う。
突然腕を握られた事に驚いたらしいジョゼが目を見開いてこちらを見た。………無意識の行動だったのだが、途端に照れ臭くなったマルコはその手をパッと離す。
「い、いや………その、ごめん。」
…………顔に、熱が集中する。………未だに手を繋ぐだけでここまでの緊張を強いられるのは、正直勘弁して欲しかった。
「ふうーん、やるじゃん。」
と、ここでお約束の様に甘酸っぱい空気をぶった切る少し低めの声が。
「な、何だよ、ベルトルト。」
ジョゼの首に後ろから腕を回し、顎を彼女の旋毛の辺りに置いたベルトルトにマルコが尋ねる。
ベルトルトはジト目で彼の事を見据えると、「いやあ、その水着薦めるなんて、やるなあ、と思ったんだよ。」と零した。
「……………?どういう事だ。」
マルコは訝しげに思いながら、ベルトルトの顎が頭に突き刺さるのを痛そうにしているジョゼの手の内の白い水着を眺める。
…………何てことは無い、普通の水着だよな?
「…………白い水着っていうのは透けるんだよ。」
ベルトルトが事も無げに言ってみせた一言に、マルコの動きはぴたりと止まった。
「それをジョゼに薦めるなんて………君ったら、大人しい顔してキングオブ助平」
「こらあああ!!てめえ、うちの妹になんつーもんを!!!!」
「違っ、僕はそんなつもりは毛頭……!!」
「やかましい、屁理屈抜かすなパンチ!!」
騒ぎを聞きつけて一目散にこちらに駆けて来たジャンの理不尽な拳を間一髪で回避するマルコ。
「ジョゼ、違うからね、僕は全く持ってそんな事を考えてはっ……!!」
この面倒くさい男二人の事なんてどうでも良いんだ、問題はジョゼ、ジョゼにいらない誤解を与えてしまった事で………
マルコは焦りながら必死の弁明をジョゼへとする。彼女は背後霊の様にベルトルトを身体に巻き付けたまま手元の水着をじっと眺めていた。
それからおもむろに布をちょいちょいと弄ってから、「…………試着してくるね」と事も無げにベルトルトの腕の中から抜け出してみせる。
「「いやいやいやいやいやいやいや」」
試着室に向かおうとするジョゼの片腕ずつをはっしと掴んで引き止めるマルコとジャン。ベルトルトはその後ろで「良いじゃん着てきなよ〜」と呑気にのたまっていた。
「………多分これ、透けないよ。布もしっかりしてるから………」
「そういう問題じゃねえだろ考え直せ」
「そうだよ、海に行ってからじゃもう遅いんだよ、今ならまだスケルトン回避は可能だ!!」
「でも…………」
「とにかく、これは駄目!!」
「だって…………」
「駄目ったら駄目だからね!!」
「…………一回、着るだけでも、駄目?」
「…………………。」
珍しく、随分と食い下がるジョゼ。マルコは真剣な表情でこちらを見つめてくるジョゼを前に言葉に詰まってしまう。
「ま、まあ…………着るだけなら…………。」
そして見事に押し負けるマルコ。彼の言葉に、ジョゼの表情は目に見えて明るくなった。
「うん………、じゃあ着てくるね。」
そう言って長いワンピースの裾を翻して試着室への道を再び歩み始めるジョゼ。
…………入れ替わりにやって来たライナーが、「何だお前等、まだどれを買うか決めてなかったのか」と殊更呆れた様に呟いたという。
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