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ミカサの髪を切る


エレンに髪を切る様に言われたので、早速その為の刃ものを探していた。

残念ながらはさみは見つからなかったがカッターを発見した。自分で髪を切るのは初めてだが短くなればそれでいい。
カッターでも充分散髪できるだろう。


「ちょっと待って。」

カッターを髪にあててさあ切ろうとした瞬間、手を掴まれ、それは阻まれた。

鋭い目付きの少女が私の腕を握っていた。どこかで似た顔を見た気がするがよく思い出せない。


睨まれている、と思ったが敵意は感じられない。どうやら元からこういう顔らしい。

「...カッターで髪を切る人は初めて見たよ...。そして敷物もしない室内で切ったら掃除が大変な事になる...。こっちにおいで。」

そう言って少女は私の手を引いて歩き出した。





女子寮近くの開けた草原にジョゼは椅子を持って来た。それに促されて座る。

「...私もそこまでうまく散髪できないけれどカッターで切るよりはマシでしょう。」

ジョゼはどこから持って来たのかはさみとブラシを取り出した。


優しい手つきで髪をとかされて、母さんにも同じ様にしてもらった事を思い出す。

「綺麗な髪だね...。切るのが勿体ない。」

「でも兵士になるのに長い髪は必要ない。」

髪を溶かすジョゼの手がピクリと反応した。


「...ミカサは何故兵士に?」

「エレンを守るため。」

「...シンプルで素敵な答えだね。」

私の髪にはさみが入った。

今日はいい天気なので見晴らしの良いこの場所は気持ちがいい。

「きっとエレンにとってミカサの存在は大きな助けになると思う...。そして君がエレンの為に頑張っている事を思うとなんだか私も元気が出るよ。」

「?なぜ」

「まだ力不足かもしれないけれど、私も兄さんの力になりたくてここにいるからね...。だから強い意志を持ってエレンのそばにいるミカサを私は尊敬するよ。」

「ジョゼのお兄さん...?そんな人ここにいるの...」

「あら...兄さんはミカサの事気に入ってるみたいだけれど、ミカサからは認識すらされてなかったのね...」


私が髪を切られている間に二羽の白い鳥が空を横切っていった。
こんなにゆっくりと時間の流れを感じるのはいつぶりだろう。


ジョゼというのは不思議な人だ。一緒にいると優しい気持ちになれる。
それはエレンと過ごす時とはまた違った、静かであたたかなものだった。





お互い言葉少なではあったけれど、私達は色々な話をした。
主にエレンの事、エレンの事、エレンの事...。
私は同じ年頃の同性の友人がいなかったから、つい嬉しくて話しすぎたかもしれない。

ジョゼは何故かしきりに自分の兄と私を会わせたがっていた。
興味がない...すごく興味がない...ので私はそれを聞き流した。



「はい、今夜はお風呂でよく頭を洗ってね。」ジョゼに手鏡を渡される。

「...ありがとう。」

うまくやれないと言っていた割には綺麗に散髪されている。手先が器用な様だ。

「綺麗な髪だから勿体ないと思ったけれどセミロングもよく似合うね。とても美人だよ。」

「ジョゼだって美人だと思う...」

「そんな事言っても何もでないよ...」

「本当なのに...」







「ミカサ髪切ったみたいだな。」
その日の夕方、だらだらと二人で話しているとジャンが思い出した様に言った。心無しか顔が赤い。

チェックの早さは流石である。

しかし今日ジョゼがミカサと話をした印象だと、ジャンの恋は相当困難な道のりになりそうである。


「ロングも良かったけどあれはあれで...。」

「そう言ってもらえると切った私としても嬉しいよ。」

「...は?なんだって?」

「ん?何が?」

「いや、お前が何をしたって言った?」

「??だから私がミカサの髪を切ったんだよ。」



「ジョゼ」

噂をすればなんとやらである。ミカサが現れた。ジャンが緊張のあまり固まる。

「どうしたのミカサ。」

「今日夕食が終わって時間があったら私の部屋に来て欲しい。」

「いいよ。なんの用事かな。」

「用事は無いけれど...ジョゼと話がしたい...。」

「喜んで。じゃあ、あとでお邪魔するね。」

「待ってる...。」



ミカサが去るとジャンはようやく硬直した状態から立ち直った。
折角ミカサと話すチャンスがあったというのに勿体ない。


「ジョゼ...お前...いつからあんなにミカサと仲良くなったんだ...。」

「...半日程前かな...。」

「...ミカサの髪の触り心地はよかったか...?」

「うん。すごく綺麗な髪だったよ。」

「クッソうらやましい...ちょっと殴らせろ。」

「落ち着きなよ兄さん...。」


ジャンの恋愛成就への道は険しい。

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