「ジョゼ」
無事元の大きさに戻ったジョゼが風呂上がりに宿舎への道を歩いていると、良く知った声に呼び止められた。
「マルコ。」
振り返ったジョゼはやはり湯上がりらしい彼の元へゆったりと歩み、隣に並ぶ。
ジョゼの少し湿った髪に触れてやると、こそばゆそうに目を細める仕草が何だか懐かしくて、思わずマルコは笑みを零した。
「………大丈夫だった?」
そう尋ねれば、ジョゼはこっくりと首を縦に振る。
「マルコのお陰で、無事にポロリせずにすんだよ…」
「ポロっ……」
彼女の何ともオヤジ臭い表現にマルコは思わず吹き出した。
それからひとつ咳払いして、ジョゼの柔らかな頬をむに、と抓る。
「…………なにするの」
不思議そうな声色でジョゼが尋ねてきた。マルコは頬から手を離すと、そのまま彼女の頭を撫でる。
「今回も色々と説教しようかな、と思ったけれど不慮の事故だったみたいだからね。これで勘弁してあげるよ。」
苦笑しながらそう零せば、ジョゼもまた微かに笑った様な気がした。
それから二人で隣り合ったままゆっくりと宿舎へと向かう。
途中、多くの白い花をつけたアカシアの木の脇に差し掛かると、それが為に暗い夜が明るく感じられる。それ程までに見事な撩乱であった。
「…………マルコが、あんなに必死だったの、初めて見たかも」
ぽつりぽつりと会話を交わしていた二人であったが、ふと、ジョゼがそう零して小さく息を吐く。
「そ、そうかな………」
マルコは先程の自分の焦りぶりを思い出して少々恥ずかしくなる。頬を微かに染めながら頭をかいた。
「うん。」
ジョゼはそう応えながら、そっとマルコの掌に触れて握ってくる。マルコもまた無意識にそれを握り返した。
「ありがとう。」
そう言ってジョゼはマルコの事を見上げる。先程よりも随分と大きくなった深緑の瞳の中の自分の姿を、マルコもまた見つめ返した。
「良いんだよ。」
しばらく見つめ合った後に、マルコが小さく呟く。
「助け合うのは当たり前だよ。僕らは、友達じゃないか。」
そう言ってマルコは優しく微笑んだ。
ジョゼは………少しの間惚けた様に、笑う彼を眺めていたが、やがてほんの少しだけ口角を上げてそれに応える。
「…………嬉しいな。」
そう言えば、ジョゼの手を包む大きな掌の力が強くなった様に感じた。
「だから……ジョゼも、僕の事を助けてね。」
「勿論だよ。マルコがポロリしそうになったら私がいの一番に「ポロリの話はちょっと脇に置いておこう」
はあ、とマルコはひとつ溜め息を吐く。
「まあ……いいか。こんな約束しなくたって、きっと君たち兄妹は……君は、僕の事を大切に思って、助けてくれるだろうから………」
「…………当たり前だよ。」
ジョゼはそう言いながらマルコの前に一歩出て、その両手を取った。
「私たちは、マルコの事が大好きだもの。」
そう言った時の彼女の表情は、今までで一番笑顔に近いものだったかもしれない。
マルコはそっと目を閉じて微笑んだ後、「ありがとう。」と心からの感謝を伝える。
それからまた二人は手を繋いだまま、肩を並べて歩く。
歩く傍、その足下はアカシアの真っ白な花弁が舞い上がり、まるで雪の上でも歩いているかの様に彼等の足跡を残していた。
藤乃様のリクエストより
15cmくらいの大きさになった主人公、逆ハー、ライナーが巻き込まれる。で書かせて頂きました。
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