いつか見る空 | ナノ
翌日の朝、ジョゼは相変わらず元、自分のシャツの袖を捲り、ミカサに手を引かれながら女子寮から食堂への道を歩んでいた。



.......途中、男子寮からの道と交わる箇所。



幸か不幸か、ジョゼとミカサの二人はジャンとマルコに出くわしてしまった。



「「あ......」」



ジャンとジョゼの口からは微かな声が漏れる。しかし、ミカサはそんなものは気にも留めず、ジョゼの腕を引いて先を急ごうとした。


再び遠ざかる兄妹の距離。ジャンはそれを止める術を持たず、ただ見つめる事しかできなかった。



.......が、少し進んだ所で、ジョゼがミカサを屈む様に促し、何やら耳打ちをしている。



そうするとがっちりと捕まえられていたジョゼの手がミカサの掌から離れ、幼女はシャツの裾を翻してこちらに小走りしてきた。




不思議そうな表情をした二人の前に立つ頃には、彼女は肩で浅く息をしていた。小さい体を懸命に動かしてここまで来たのだろう。



........じっと見つめ合うマルコ、ジャンとジョゼ。



やがてジョゼは恐る恐ると言った様に体をふたつに折り、深々としたお辞儀を二人の目の前で披露してみせた。


そして....ぽかんとしてるマルコとジャンの耳には本当に微かな「....ごめんなさい。」の声が届く。




........二人は顔を見合わせた後、マルコは小さく笑い出し、ジャンは心から安堵した様に、盛大な溜め息を吐いた。



「ああー...クソ、心配させやがって....嫌われたと思ったぞチクショー」


そう言いながらジャンはジョゼの華奢な体を屈んで抱き寄せる。マルコもまたホッとした様にその光景を眺めていた。



「........まさか。私が兄さんを嫌う訳ないじゃない」


胸の内で囁かれた言葉。......そしてジャンの体に腕が回る。.......んん?腕が、回る?あの体のサイズじゃ到底不可能な筈........


段々と質量を増し始める腕の中のものがもぞりと動いてジャンとぴったり視線が合わさった。



「......おはよ、兄さん。」



その言葉と共にジャンの後ろにいたマルコが息を呑む。



「マルコも....おはよう。」



顔面筋が硬直しているマルコに向かって、ジャンに抱かれたまま手をひらひらと振るジョゼ。



「......ところで皆。何で私はズボンを履いてない状態で兄さんに抱かれてるの」


その瞬間、一迅の黒い風が兄妹の間を通り抜け、ジョゼの事を攫っていった。



「わ、ミカサ....。横抱きは恥ずかしいよ、もう体調も平気だから....」


「.....自分の格好を見てから発言をしなさい。」


「うん....。でも、ほらこのシャツ大きめだからちゃんと隠れる所は隠れてる....」


自分のシャツの裾をぴらりと触ったジョゼの頭をマルコとジャンが同時に殴った。


「おいミカサ今すぐその色んなものが足りない奴を女子寮へ連れて帰れ」


「言われなくても」


そう言ってミカサは凄まじいスピードで元来た道を駆け出す。


その背後からは「......僕が何の為に今日まで口を酸っぱくして女子の恥じらいが何たるかを教えたと思ってる!?全くこの子は!!本当に全くもう!!」というマルコの叫び声が木霊していた。









「はー.....そんな事が....。」

そう言いながらジョゼは寝室でズボンを履いていた。


.....春とはいえまだ冷たい空気が漂う朝である。先程までの格好で体が冷えたのか小さくくしゃみをしながら。



「ミカサ....何か怒ってる....?」

立体起動装置のベルトを慣れた手付きで締めながらジョゼが顔だけミカサの方を向く。


ミカサはじとりとした視線でそれに応えた。....どうやら怒っている様だ。



「.......ジョゼは、男性不信でいる位が丁度良かった。」


ベルトのねじれを発見したのか、それを締め直してやりながらミカサが呟く。


「今は警戒心が無さ過ぎる。」


ぎちりと少しきつめに締め上げる。痛かったのかジョゼが小さく声を漏らした。



........ミカサの腕がゆっくりと体に回って来たので、ジョゼも淡く笑ってそれを抱き返す。



「.......私が一番ジョゼの事を好きなんだから.....」


小さな小さな声。



ジョゼはミカサの濃艶の髪を撫で、「ありがとう」と心からの感謝を述べた。



少しの間抱き合った後、ジョゼが額を合わせながら「小さい私に優しくしてくれてありがとう」「私も、ミカサが大好き」と囁く。


それだけで先程までの憤りはミカサの胸の中からあっという間に消えていってしまった。ジョゼの体をもう一度ぎゅっと胸に抱き、「好き」と繰り返す。




「そろそろ行かないと、朝ご飯を食べそびれちゃうね...」



やがてジョゼが少々名残惜しそうに言いながら体を離した。



「.......行こうか」



そう言ってミカサに対して手を差し伸べる。それに掌を重ねると、先程と大きさは随分違うが変わらない繊細さを感じる事ができた。




二人は手を繋ぎながらのんびりと先程と同じ道を辿る。




........食堂に着くと、ジョゼはきっといつもの様にジャンとマルコの元へと行ってしまう。



だからこの瞬間が少しでも長く続く様に......私はできるだけゆっくりと、歩みを進めるのだった......。



まる様のリクエストより
落ちミカサ、プラス進撃女子で幼児化で書かせて頂きました。


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