(13巻ネタ)
「......兄さん格好良い、格好良いよ、すごく.......」
ジョゼは手鏡を見つめて呆然としている兄に対して懸命に声をかけていた。
......現在、彼の頭髪はいつもの茶味がかったグレーではなく、真っ黒な...まるで何処かの死に急ぎ野郎の様な色をしていた。そして辺りを取り巻く空気もまたそれと同じ様にどす黒い。
「兄さん....、そんなに機嫌悪くしないでよ....。きっと兄さんにしかできない仕事なんだよ....その証拠にほら、エレンと瓜二つでどっちが本物か分からな「ふざけるな!!!」
遂にジャンがジョゼに向かって手鏡を投げ飛ばした。すかさずミカサがそれをキャッチしてじろりとジャンをねめつける。
「お、おう、すまん」
ジャンはびくりと肩を震わせてそれに対して謝辞を述べた。
「おいお前の所為でミカサに睨まれたじゃねーか嫌われたらどうしてくれる」
「私の所為なの.....?」
「当たり前だろうが」
「......うん、そうだね。私の所為だよ、兄さんは何も悪くない....」
「分かりゃ良いんだ」
((((それで良いんだ.......))))
どうやらジョゼは反論するのが面倒になったらしい。
「くっそ....もう二度とやりたくなかったんだこんな事は....何だってオレなんだ畜生....」
「だからそれは兄さんが適任だからだよ。特別任務....ちょう格好良い。」
「......ならお前がやれよ」
「嫌」
「おい即答か」
「いやそれは中々良いかもしれねえな」
その時、部屋の中に低めの声が転がった。思い思いの事をしていた一同は声がした方...入口の辺りへと視線を向ける。
「.....どちらかというと馬兄より馬妹の方がエレンに似ていると前から思っていたんだ。」
あいつは割と女顔だしな....と言いながらリヴァイはジャンとジョゼの元へ歩み寄る。
........非常に嫌な予感を覚えたジョゼはすかさず逃げようとするが、それは兄にがっちりと右腕を掴まれて適わなかった。
「.....兄さん、ちょっと、離して」
ジョゼは懸命に兄の掌を剥がそうとするが、それはとてつもなく強い力で握ってきてどうしても離れてくれない。
.......そして、ジャンの顔はこの上なく意地悪く、そして楽しそうな表情を描いていた。
「良いじゃあねえか。お前にしかできない特別任務だとよ。ちょー格好良いなあ?」
「兄さん、ごめん、心の中で大爆笑してた事なら謝るから離して」
「てめえやっぱり笑っていやがったか絶対離さねえ」
「よくやったジャン、そのまま抑えてろ」
「合点承知です」
「誰か、誰か!!なんで私がこんな目に!!!清く正しく生きて来たつもりなのに!!!」
「どうやらそれは気の所為だった様だな」
...................。
十数分後、そこには手鏡を持って激しく項垂れるジョゼの姿が。その傍らでジャンは大爆笑していた。
「やべえ、やべえよジョゼ!!お前滅茶苦茶イケメンじゃん!!!確実にオレよりお前の方が似合ってるって!!!」
「うう....。兄さんのあほー.....」
「ジャン、ジョゼの事を虐めないで」
「お、おう、すまん。」
ミカサは落ち込むジョゼに対してよしよしと頭を撫でてやる。そして....鬘を取り去ってしまおうと自分の頭頂部に手を伸ばすジョゼの行為をさり気なく阻止した。
「.......想像以上だな」
リヴァイは腕を組んでその様を見つめる。......黒い短髪姿となったジョゼは....中々に男前だった。顔立ちも雰囲気もジャンが変装したものに比べてエレンに近い。
(これは....こいつに決まりかもな)
だが......
「ひとつ問題があるとすりゃその駄肉だな」
そう言いながらリヴァイはジョゼの胸元を指差す。
「だっ.....」
あまりの事にジョゼは絶句した。
「なんとかしろ。でなきゃ削ぎ落とせ」
「そぎっ....!?」
リヴァイの残酷な言葉に、今度はジャンが絶句する。
「.......まあ現実的な対処法はさらしだろうな。おい根暗.....いや、サシャ、巻いてやってこい」
最初にミカサを指名したリヴァイだったが、彼女の瞳の中に覚えた不穏な色からジョゼの貞操の危機を感じ取り、サシャに指名し直した。
サシャと共に部屋の奥へと消えて行くジョゼ。
その背中はひたすらにげんなりとしていた。
*
リヴァイは....部屋の奥から出て来たサシャとジョゼを物凄い形相で睨みつけていた。
そしておもむろに手を伸ばし、ジョゼの胸の辺りにぽん、と手を置く。
(え......)
ジョゼは突然の事に、目を数回瞬かせてリヴァイを見つめ返した。
「なにも変わってねえじゃねえかああ.....!!!」
そう言いながらリヴァイはぎりぎりとジョゼの襟首を締め上げる。ジョゼはもう色々と泣きたかった。
「ちょっと待って下さいこれには理由があるんです!!」
そこでサシャが仲裁する様に声を発した。部屋にいた一同はサシャの事を見つめる。
「ジョゼってば意外すぎる事に大きいんですよ!!それでもってさらしに上手い事巻かれてくれなくて」
続きの発言はジャンが投げ飛ばした芋がサシャの頭に激突した事によって適わなかった。ジョゼは恥ずかしさから内蔵が全て沸騰してしまいそうな気持ちになる。
「そうか.....」
リヴァイはジョゼの胸元から掌を外しながら零した。
どうやら納得してもらえた様で、ジョゼはほっと胸を撫で下ろす。
「なら削ぐしかねえな」
...........納得してもらえてなかった。全く持って。
「ちょっ、待っ、勘弁してやって下さい!!!」
その言葉に、ジャンが必死の様子でリヴァイとジョゼの間に割って入る。
「これが唯一こいつの女としての取り柄と言える箇所なんですよ!!これが無くなったら完璧に男だ!!」
「ひどい....」
しかし...ジャンの懇願にリヴァイはさらさら耳を貸そうとしない。「邪魔だ」と一言放ち、彼をどけようとする。
「とある狩猟民族の女は弓などの武器を扱う際に左の乳房が邪魔となる事から切り落としていたらしい。お前もその位の根性を見せろ。」
......リヴァイの目は完全に据わっていた。
ジャンはジョゼの事を抱き寄せる様にしてリヴァイから遠ざけようと努力する。....が、兵士長様の力の前にはそんなものは無駄だった。
「もう、オレがやります!!!エレンの代わりはオレがやりますから!!!!まじ勘弁して下さい!!!!」
遂にジャンが懇願する様に声を上げる。
これによって、なんとかジョゼの女性としての尊厳は保たれたという....。
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