ベッドに腰掛けて沢山の話をしてた僕らだったが、日付をとうに越えてしまった頃、ジョゼが眠そうに目を擦り始める。
「そろそろ寝ようか....」
少々残念だったが、これ以上付き合わすのも可哀想だ。
「ジョゼの寝床はソファに作ってあるから....ほら、立てる?」
そう言いながらジョゼの腕を引いて立たせる。
彼女は「ありがとう」と言ってからソファの方へと、若干ふらふらしながらも歩いて行った。
しかし.....何故か途中で立ち止まり、こちらをちら、と振り返る。
頭上に疑問符を浮かべてそれを見つめ返すと、ジョゼは体の向きも変えて僕の元まで戻って来てしまった。
「?どうしたの。」
そう尋ねると、ジョゼは少しの間目を伏せた後、僕の寝間着の裾をそっと掴んだ。
「......一緒に寝たい」
微かに囁かれた言葉を聞いて...全身の力がへなへなと抜けるのを感じた。
えー....
この子なんでこういう事を簡単に言ってのけるかなあ。
「駄目なら良いんだけどね....」
と言いつつも僕の寝間着を離してくれる気配は無い。....まあ、勿論構わないんだけど。構わないんだけどさあ....!
溜め息をひとつ吐き、「.....良いよ。」と言えばジョゼはまた先程の様に、沢山の光の粒で満たされた瞳でこちらを見上げる。
ああー...僕は今夜を何事も無く乗り越える事ができるのだろうか。
*
ベッドの中へ入り毛布の端を中から持ち上げてやると、ジョゼは淡く笑い...ゆっくりとその体を僕の隣へと沈めた。
何の抵抗も無く胸の内へと収まってくる彼女を見て、警戒心を全く持たれていないのか....と少々寂しく感じると同時に、嬉しくもなった。僕は、信用されているのだ。
そして、この慣れた所作は....ジャンとも同じ様な事を沢山していたのだという事実を想起させて、小さな嫉妬心を起こさせる。
いつも思う。僕は、ジャンに適う日が来るのだろうか。
あれだけ強い絆で結ばれた兄妹の中に、入っていく余地は....
今....ここで一線を越えれば、少しは彼よりも、優位に立てるのだろうか.....。
「マルコ」
ふと....彼女が僕の名を呼ぶ。
何故だろう。それだけで、さっきまで心の中で渦巻いていた不安が収まっていくのを感じる。
「また、ここに泊まっても良い?」
暗い部屋でジョゼの声はよく通った。その掌を握って、「勿論だよ」と穏やかに言えば彼女がそれを握り返して来た。
「......今日、本当に楽しかった。」
「もう、昨日だよ....」
「ああ、そっか。」
「.....昨日に戻りたいな」
「そうだね。.....でも、また来るから....」
「うん.....。絶対来てね。」
「うん。絶対来るよ.....」
ジョゼが空いている方の手で僕の胸の辺りをそっと触った。微かな溜め息が聞こえる。
「....マルコ。」
「うん....?」
「ありがとう。」
「何が。」
「色々。」
「.....どういたしまして。」
「好きだよ.....」
「ありがとう。でも、きっとね、僕の方が......」
穏やかな寝息が聞こえて来たので、僕は言葉を切った。
少しの間を置いてから....大好きな彼女を抱き寄せて、目を閉じる。
不思議と、変な気持ちは起こらなかった。
ただ....大事にしてあげたいと思った。
焦らなくて良い。時間なら沢山ある筈だ。
何故なら危険ばかりの壁外でも、彼女と兄が二人でいれば必ず帰って来てくれる筈だから.....
僕は待とう。そして、沢山の『いってらっしゃい』と『おかえりなさい』を君に言ってあげたい。
そして同じ言葉を、君からも受け取りたい。
とりあえず.....今は、おやすみ。.....ジョゼ。
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