「うーん.....」
.....首を捻りながらジョゼの事を見つめる。
「.....大きいね。」
僕の視線の先で呟くジョゼは、見事なまでに憲兵団のジャケットに着られていた。
「おかしいな...君と僕の身長差は然程無いのに....」
表向きは外部の人間を泊める事は禁止されているので、調査兵団のジャケットの代わりに憲兵団のものを着せて周りに馴染ませ様としたのだが....
予想以上にそれは大きかった。肩幅の違いから、袖が手の甲を隠すまでに下りて来てしまっている。
(......やっぱり、男女の体格差なのかな。)
そう思うと、何だか目の前の女性が非常に愛らしい存在に思えてきた。
更に言うと....可愛い。僕のジャケットに着られているジョゼは想像以上に可愛かった。
「どうしよう....。これはちょっと不審だよね...」
甲にかかる袖を眺めながら彼女が呟く。
「まあ...確かにそうだね。仕様が無いからこの部屋からは出ない方が良いよ。」
「うん....。でも、ご飯は....」
「僕が食堂から持って来るよ。ここで待っていてもらっても良いかな?」
「分かった。....ありがとう。」
「ん、良いよ....。」
そう言いながら袖の位置を未だ気にしている彼女を、自然な所作で抱き寄せる。
突然の事に驚いたのかジョゼは若干体を強張らせた。
「どうしたの...マルコ。」
焦った様な声が胸の内でしている。抱き締める力を強くすると、ジョゼも徐々に力を緩めて体を預けてきた。
「......可愛い。」
心から思った事を口にすれば、少しの沈黙の後「そんな風に思ってくれるのは、マルコ位だよ....」と蚊の鳴く様な声が聞こえる。
ふと自分の首筋に顔を埋める彼女の方へ視線を落とすと、勿論の事耳が赤く染まっていた。
.......本当に可愛いな。どうしたものだろうか。
もう一度可愛い、と言う。それからもう一度。
溜まらなくなってその単語を重ねれば、我慢の限界が来たらしいジョゼが精一杯の力で僕の体を引き剥がした。
少々残念に思ったけれど、想像以上に力が強かったのでそれに従わざるを得ない。
....そういえばこの子、訓練兵の時の成績順位は僕より上だった。.....今思うと中々に悔しい。
「.....もう、もう...分かったよ、一回言えば分かるから.....!」
大きく一歩退いてからジョゼが訴える。耳同様にその頬は赤く染まっていた。
掌をこちらへと広げて僕を近付けない様にしているのを見て、流石に可哀想になったので勘弁してあげる事にした。
代わりに手を伸ばしてグレーの髪を撫でてやる。くすぐったそうにするのがまた可愛くて、胸が温かくなった。
気が済むまで頭を撫で、ようやく手を離せばジョゼもほんの少し穏やかな表情をしていた。
ひとつ笑みを零して、「行ってくるね」と言う。
「うん、いってらっしゃい」とジョゼが応えるのを聞き届け、僕は部屋を後にした。
(......いってらっしゃい、か.....)
随分と久しく言われた言葉だ。
........なるべく早く部屋に帰ろう。
そう思わずにはいられない魔力がこの単語にはある様だ。
*
部屋へ戻ると、両手が塞がっていた僕の代わりにジョゼが扉を開けてくれた。
彼女が今度は「おかえりなさい」と無表情ながらも迎えてくれるのがとても嬉しくて、ああ、やはり泊まってもらって良かったな、と思えた。
「ただいま」
そう応えた時....ふと、...彼女と結婚したいな、と感じた。
劇的に直感した訳でもない。とても自然に、胸の内からそれは湧き上がったのだ。
元より僕の相手はジョゼしかいないのは分かり切っていたけれど....
それでも、今....僕と君の未来を、確信したんだ....。
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