(マルコと子供の成長記の続編)
(子供の名前は固定されています。)
「.......行ってらっしゃい」
「しっかりやるんだぞ」
ボット家の玄関で、両親に送り出されようとしている少年が一人。
.....かつて母親譲りの無表情で、頑として口をきかなかった少年も成長し...相も変わらず無表情ではあるが、人並みに話す様になり...今や母親の身長を追い越そうとしていた。
そして本日、兵士への第一歩として訓練場へ赴くのである。
「うん....。いって、くるけど.....」
マヤは言葉を切って自分の右手をしっかりと握っている母親の掌を見下ろした。
「母さん...これじゃ行けないよ.....。」
しかしジョゼは全く持って手を離す気配が無い。
「.....ジョゼ。離してあげなよ」
マルコに軽く嗜められて不承不承という感じで彼女はマヤの手を解放した。
「良い加減子離れしないと駄目じゃないか」
優しくジョゼの肩を抱きながらマルコが言う。
彼女は非常に悲しそうに...とは言っても表情筋は1ミリ程度しか動いていないのだが...「元気でね」とマヤの頬に軽く口付けた。
「うん....。母さんと父さんも。....手紙、書くよ。」
「ありがとう。待ってるよ」
マルコが息子の髪をくしゃりと撫でる。彼は仄かに頬を赤くして嬉しさを表現した。
「あと、母さんは良い加減早く起きれる様にした方が良いよ。これから僕が起こしてあげる事はできないんだから。」
「そ、そうだね。」
突然の...しかし最もなご指摘にジョゼは相槌を打つしか無かった。
「父さんは母さんを甘やかしすぎないの。そんな事だからいつまで経っても母さんはぼんやり大将なんだ。」
「....は、はい。」
「あと花瓶の水はちゃんと一日毎に変えて、本は本棚に。母さんは所構わず寝ないの。食器は洗ったらすぐに拭いて食器棚に。夫婦仲が良いのは結構だけどあまり人前でイチャつかないで。公共の場所でそういう事をするのはよくないよ。」
「「.....ごもっともです。」」
(....この子、いつからこんなに口煩くなったの)
ジョゼがマルコに小さく耳打ちする。
...かつてマヤは自分にそっくりであったのに、いつの間にか似て非なるものに変化を遂げてしまった様だ。
(さあ...。一体誰に似たんだ...)
首をひねりながらマルコが応える。
(マルコに....結構似てると思うなあ)
(えっ僕ってこんな小姑みたいなの)
(そうだよ)
(えっ)
「とにかく...まあ、頑張るよ。」
マヤが頭を軽く掻きながらぼそりと言う。
(こういう適当な発言はジョゼに似てるね)
(適当じゃない。私はいつだって真剣だよ)
(余計性質が悪いね)
(えっ)
「父さんも母さんも10位以内に入ったらしいし....僕もそこを目指すよ。」
マヤはこそこそと何やらを話し込んでいる両親を意に介した様子なく眺めていた。
「それは良い事だ。じゃあマヤは憲兵団に入団する訳だね。」
マルコはジョゼとの会話を中断して息子の掌をはっしと笑顔で握る。
「.....違うよマルコ。マヤは調査兵団に入るんだよ。...英雄になれるよ。かっこいいぞお」
マヤの空いている方の手をしっかりと掴みながらジョゼが言った。
「ふーん...。僕にはジャンや君が英雄にはとても見えないなあ」
マルコが少し意地悪な視線を妻に向ける。
「......兄さんはいつだって私の英雄だよ」「出たよこのブラコン」
ようやく....母親の手から解放されたと思っていたのに、今度は両手を二人にがっちりホールドされてしまってマヤは非常に困っていた。
それに....
溜め息をひとつ吐いて、彼は「父さん、母さん」と呼びかける。
小さくいがみ合っていた二人の顔が揃ってこちらを向いた。.....うちの両親は、ほんとに仲が良いなあ....
「ごめん。僕....駐屯兵団に入るから」
........時が、停止した。
固まる父母に一礼して、「じゃあ、そういう事だから」と言ってマヤはさっさと家を後にしてしまった。
マルコとジョゼはぽかんとするしかない。
しばらくそうした後、おもむろにマルコがジョゼの手をぐっと握って来た。
「......ジョゼ。マヤの期の訓練場は何処だか分かる?」
ジョゼもまたそれを握り返す。
「確か私たちの時と同じ場所の筈だよ....」
軽く頷き合った二人の目には何かを決意した灯火が宿っていた。
.........そして、事あるごとに授業参観の如く訓練場に訪れ自分の兵団へしつこく勧誘してくる両親に....流石のマヤも頭を抱える事になったのはまた別のお話......
桜井様のリクエストより
マルコとの子供が訓練兵団に入団するお話で書かせて頂きました。
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