「...........?」
起きた時、馴染みの無い景色が目に飛び込んで来て少しばかり混乱した。
本棚が自分を取り囲む空間....あぁ、図書室か。ジョゼはよく利用している様だがオレはさっぱり来ないので一瞬何処だか分からなかった。
(.......?何故オレが図書室に?)
確か医務室で横になっていた筈だが....。
ふと手元に視線を落とすとノートに難解な文字の羅列が。.....あいつ、オレの体になってもこの文字なのか....。
.......ん?オレの体....?
ジャンはがたりと席を立って近くの手水場に駆け込む。そして鏡を確認して歓喜の声を上げた。
「よっしゃあ!!オレだ!!オレはここにいるぞ!!!」
「......なんか便所からジャンの雄叫びが」
「なんで自分が排泄中な事を周りに知らせる必要があるんだ」
ベルトルトとライナーが困惑の表情を浮かべながらそこを通り過ぎたという。
(..........ジョゼも元に戻ってるのか?という事はあいつは医務室か....)
手水場からジャンは医務室に向かう事にした。妹が無事戻っているかどうかも気になるところだ。
*
先程まで自分が寝ていたベッドがあるカーテンを開くとジョゼがぼんやりとした表情でマットの上に腰掛けていた。
「ああ兄さん...で良いんだよね...?」
寝起きらしい。とろりとした目をしている。
「おう。どうやら無事戻ったみたいだな...。...そういやそろそろ夕食だけど食えるか?」
ほっとしながらジャンが尋ねる。
「うん。....何かお腹減ったよ...。」
「お前って女の体でもそれなりに燃費悪いのな」
苦笑いしながらジョゼの手を引いて体を起こしてやる。....ああ、やっぱりオレはこいつが妹でいてくれるのが一番いいや。
ジョゼがひとつ伸びをすると間接がぱきりと鳴る。
それから「おはよう、兄さん。」と言って淡く笑った。
「.............。」
ジャンはその分かり辛い笑顔を見て、少し惚けた表情をした後に軽く目を伏せる。
「ジョゼ」
そのまま妹の名前を呼んだ。
「?なに」
まだしばしばする目を擦りながらジョゼが応える。
「ちょっと目瞑れ」
「ん?何で」
「良いから瞑らんかい」
「こらこら兄さんそれ以上すると瞑るじゃなくて潰るになる」
無理矢理指で瞼を下ろそうとしてくるジャンに観念した様にジョゼは目を閉じた。
.....少しして、温かさと共に体が締め付けられる感触がした。しかし決して苦しいものではなく、むしろ心地良い様な気がする。
ジョゼはゆっくり瞳を開いて、自分を抱いている兄の肩に頭を預けた。それから自分からも背中に腕を回して彼への愛情を表す。
しばらくそうしていると再度眠気が呼び起こされた。ジョゼは快い温もりの中で少しだけ微睡んだ気分になる。
「ジョゼ、寂しかったらちゃんと言えよ。」
ゆっくりと頭を撫でられた。ジョゼはジャンにこうしてもらうのがとても好きだった。
ようやく気が済んだのか彼はジョゼの体を離す。それから「行くぞ」とだけ言うと強く手を引きながら歩き出した。
(......もう慣れてるしそこまで寂しくは無いんだけどなあ)
ジャンに引っ張られる様にしながら後に続くジョゼはぼんやり思う。兄の心妹知らず。
(でも....)
一歩踏み出して彼の隣に並んだ。兄と妹なのに身長差はあまり無い。女性にしては高身長だが、ジョゼはジャンと同じ目線でいられるこの背の高さが気に入っていた。
(嬉しいなあ....)
思わずジョゼは笑ってしまう。本当に微かな表情筋の変化ではあるが。
「.....何笑ってんだよ」
先程の行為が照れくさいのかジャンの口調は随分とぶっきらぼうだ。ただ、彼だけはジョゼの心の変化をいち早く察知する事ができる。それもまたジョゼを幸福な気持ちにさせた。
「.....今日のご飯、何だろうね。」
のんびりとジョゼが尋ねる
「期待するだけ無駄だぞー。どうせお馴染みのうっすいスープとパンだ。」
「それもそうだぜよ...」
「.....何だその口調」
夕食にて、二人が元に戻った事に狂喜したマルコは感涙で薄いスープを更に薄めたという。
ぷろぐれむ様のリクエストより
主人公が男になり、ジャンが女に。ジャンが寂しがる
ニッカ様のリクエストより
朝起きたら双子の中身が入れ替わっちゃってた、みたいなもしも話
で書かせて頂きました。
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