「ジョゼ、悪いな。待ったろ」
ジャンが少し息を切らせながらやって来た。
ジョゼは片手を上げてそれを迎える。
「うん。でも一緒に待ってくれた人がいたから楽しかったよ」
「知り合いにでも会ったのか?」
「ううん。リヴァイさんに会った。」
「.....はぁ?」
「お茶をしながらのんびりお話できたよ」
「......はぁ?」
「帰ろうか、兄さん。私はお腹が減ったよ。」
ジョゼは席から立ち上がって歩き出す。
それに手を引かれて歩くジャンは未だ頭に疑問符を浮かべたままだった。
*
「........リヴァイさんは......ひどい.....。」
書類の山に埋もれているジョゼの頭髪らしき物体から声が漏れた。
回り込んでその顔を確認すると目にくっきりとした隈を作って書類と格闘している。
「どうしたんだ、この大量の書類。」
ジャンが気遣う様に声をかけた。明らかに新人がこなす量では無い。
「.....カフェオレを奢ってもらったばかりに.....」
「........?よく分からんが厄介な事に巻き込まれてんなぁ」
「手伝ってよ兄さん....」
「嫌だ」
「.......ひどいよ」
その時、執務室のドアが乱暴に開けられて元凶の男が入って来た。
「おいジョゼ。この書類は何だ」
そして紙の束を彼女の眼前に突きつける。
ジョゼはよろよろと身を起こしてそれに視線を合わせた後、「あぁ、さっき提出した奴ですね。何か問題が....?」と尋ねた。
「読めねぇんだよ....。何だこの字は。暗号か。」
リヴァイは彼女の頭を間髪入れずにその書類ではたく。何とも言えない声がジョゼの口から漏れた。
「.....お前は文字を書く練習から始めた方が良さそうだな。明日までに『調査兵団万歳』と10000回書き取りして来い」
「....待って下さいリヴァイさん。これ以上仕事増やされたら死んじゃいます...。」
「......飲んだろ、カフェオレ。」
「たかだかカフェオレ2杯で物凄い暴利な契約を結んでしまった....」
「2杯じゃねぇ。3杯だ。誤摩化すんじゃねえ。」
「はい....すみません。」
「全部きっちり終わらせて提出しろよ。死んでも骨くらいは拾ってやる。」
「....死にませんから.....死んでたまるか....」
来た時と同じ様に乱暴にドアを開けてリヴァイは出て行った。
ジャンはひたすらに『調査兵団万歳』と書き取りを始めた妹にただ、憐憫の視線を贈るしかなかったのである......
*
「.......まぁ読める様になったな。他の書類も確かに受け取った。ご苦労。」
「はぁ....。」
「.....お前、飯は食ったか」
「お陰様でまだです....。」
「じゃあ食いに行くぞ。.......奢ってやるから」
「いえ、結構です.....。またそれを理由に仕事を押し付ける気でしょう。」
「分かっているなら話は早い。さっさと歩けよ、おら。」
睡眠不足のジョゼは、半ば引きずられる様にリヴァイと共に食堂へ向かって行った。
しばらく彼女は、この非常に分かりにくい兵士長の愛情表現に振り回される事になる....。
彩銀様のリクエストより。
リヴァイ兵長がこき使っていじめながらも可愛がるお話で書かせて頂きました。
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