空が橙色に染まっていく。
校舎の屋上で一人座って、ぼんやりと眺める夕暮れの空は、昼間とはうってかわって寂しさを感じさせる。
・・・今が夕暮れでなかったとして、私の寂しさに変わりはないのだけれど、
ここ最近の私の不幸を聞いてほしい。
まず、成績の低迷、悪化。
常に学年上位の成績を取り続けてきたのに、最近になって、どんどん低下、
ついこの間の定期考査では、下から数えた方がはやい順位にまで落ちてしまった。
そして二つ目。
私の成績悪化が、家族にまで影響を及ぼした。
元々勉強や進学に五月蝿い私の両親、
成績の伸び悩みに苛立ちが募っていたらしく、小さないさかいやトラブルが多発。
先日、それが原因で大喧嘩。
ついには、離婚。
最後、三つ目。
一年半付き合っていた彼氏と、今日、別れた。
理由は、相手の浮気。
何故こうも悪いことばかり重なるのだろう。
一体、私が何をしたっていうんだ。
今の私は、まるで深海魚。
深い深い海の底、
真っ暗な海底を這う、深海魚。
「・・・あーあ・・・、さみし・・・、」
「何がだ」
「うあ、」
呟いたと同時に、耳のすぐ近くで聞こえた低い声と、背中にかかる誰かの体重。
「・・・三成、」
姿を確認しなくても分かる、
今、私の背中に寄りかかっているのは、幼馴染みの友人、石田三成。
「・・・何よ、」
「それはこちらの台詞だ。・・・何をしている、」
「・・・別に、何も?」
と答えれば、
「・・・嘘をつくな、」
と静かに呟いて、私の背中にグッと体重をかける。
「うっ・・・、重いんだけど、」
「ならば隠さずに言え」
「・・・、」
少し首を捻って後ろを見れば、三成の鋭い瞳と視線が絡む。
「・・・」
「・・・、分かったよ・・・。でも、大したことじゃないし、三成には関係ないんだからね、」
と、前置きをして、息を吸い込む。
「・・・彼氏に、フラれた、」
「・・・」
「・・・それだけ、」
小さな声で呟いて、俯く。
「・・・、」
「・・・貴様は、」
「あう、」
背中にかかる体重が消えたと思ったら、いきなり頭をわしゃわしゃと撫でられて、おかしな奇声を発してしまう。
「・・・何よ、」
俯いていた顔をあげて三成を睨めば、
彼は、いつになく優しい表情をしていた。
「・・・泣いたのか、」
「・・・泣いてない・・・、」
「ならば泣け、」
頭を撫でる荒い手つきはそのままで、三成は言った。
「堪えるような真似はするな。泣いた方が楽になる、」
「・・・三成、」
「貴様はいい女だ。心配などいらない、きっと、幸せになれる、」
「・・・っ、」
「だから、忘れろ。今は、泣いて忘れろ、」
「・・・じゃあ、」
三成のせいで溢れそうになる涙を堪えながら、必死に言葉を紡ぐ。
「・・・ちょっと、胸貸してよ、」
「・・・好きにしろ、」
「・・・っ、」
三成の言葉と同時に溢れだした涙を隠すように、三成の薄い胸板に顔を埋める。
背中を擦ってくれる三成の優しい手つきに、
ドクン、ドクン、と聞こえる、三成の鼓動の音に、
余計に、涙が溢れて止まらない。
ああ、そうだ、
優しくて、暖かくて、
だけど、どこか寂しくて悲しい。
そんな、彼の夕暮れのような優しさが、
私は大好きなんだ。
彼の夕日のようなその光は、
深い深い海の底に居る私にも、
眩しいくらいに届いた。
深海魚がみつけた夕暮れ
(いつだって、
貴方は私の光だよ、)
110707(七夕!)
星を泳ぐ魚様への、企画提出作品です。
素敵な企画に参加させて頂き、ありがとうございました!