時限爆弾でも仕掛けようか

(壁に向けて〜…と同じ設定)



あの、ある意味衝撃的な第二の告白から数週間。
家康の壁破壊運動により、2人の関係は少しずつ変わっていっているが鎌子がまだ色々と恥ずかしさや慣れないところがあるらしく今だに“徳川”と呼んでいることのほうが多い。が、そのたびに罰ゲームと称した家康得ゲームを仕掛けてくるのでなんとか頑張っている。理不尽な罰ゲームに怒ったりもするが、鎌子も“家康”と普通に呼べるよう努力はしているのだ。なんだかんだ言いつつも、家康のことが好きだから。

学校が終わり、部活もない今日はだらだらと教室で皆と話していたが寒さや暗さが増してきたためそれぞれ帰路に着く。かすがや政宗達に校門で別れを告げ、2人も歩きだしていく。
本当は2人で話したりもっと居たいのだが、学校に居ると鎌子第一の絆であるかすがが邪魔をしてきて、それに便乗して政宗や元親などもわらわらと集まってくるのだ。何故邪魔をするんだ!独眼竜!!(Hey!俺だけかよ!)と毎回心の中で叫ぶが、鎌子の笑顔が見れるならいいか、とも思ってしまうし皆で騒ぐのも楽しいことだ!だが、いい加減気を使ってくれると嬉しいな!と、悶々としている彼の複雑な心中など知る由もなく彼女は皆に向け笑顔で手を振って別れを告げていた。


「さて、じゃあ私達も帰ろっかー!」

「ああ、そうだな!」


学校を背にして歩き出す。そんな2人の間を、びゅう、と冷たい風が通り抜けて行った。
あまりの寒さに思わず声を上げ急いでスクールバッグから手袋を出しはめていく鎌子を見て、家康はポケットに手を突っ込みながら笑って見ていた。


「ううう…夏よりかは冬の方が好きだけど、寒いから嫌だなぁ…」

「結局嫌いなのか?」

「うーん、好き?」

「ワシのことは?好き?」

「っ!? し、知らない!!」

「そう照れるなよー」


ニヤニヤ笑う家康から距離を置き、手袋をはめた手をこすり合せる。第二の告白以来、家康はこうしてたまに恥ずかしいようなことを聞いてきたりするようになった。彼は友達という壁を壊し、恋人という関係をはっきりと築きたいのだが如何せん鎌子が恥ずかしがってガードを固めてしまう。気持ちの整理は出来たが、まだ行動にまでは移せないといったところだろうか。
待つのが得意な男・家康はそれを理解しているので気長に壁を壊して行けたらいいかな、と思っている。だが本当の本心はさっさと壊してらぶらぶちゅっちゅしたいぜこの野郎!といった感じである。そんな荒ぶった気持ちを微塵も顔や態度に出さないとは、流石権現様。

鎌子と軽く言い合い(鎌子が一方的にきゃんきゃんしているだけ)しながら歩いていると、コンクリートが欠けていたようで足を引っかけてしまった


「おっとと」

「ほら、ポケットに手突っ込んで歩いてると危ないよ?」

「いざと言う時は助けてくれよ?」

「私よりはるかに体型が良いとく、が、……い、いえや、す、なんか支えたら潰れるわ!」

「(おっ、頑張ったな。顔赤いけど)」


名前を一生懸命言い直してくれた嬉しさについニヤニヤしていると、横からスクールバッグが飛んできた。それを両手で受け止め、走って逃げるとどこかの前髪が特徴的な某I君のように叫びながら追いかけてくる。正直それはやめてくれ!と思いながらも嬉しさと楽しさが止まらない。


「鞄返せよおおおおおお!!!!」

「鎌子がくれたんだろう?」

「あげてない!!!」


がしっ!と、ブレザーの裾を掴まれてしまったので止む無く鬼ごっこも終了。息も絶え絶えな鎌子にスクールバッグを手渡し、乱れてしまった髪の毛もついでにさりげなく直してやる。流石権現様であらせられる。

走ってきたせいで、冷たい風をもろ浴びることになってしまいお互い寒さが倍増してしまった。家康は手が、鎌子は膝が赤くなってしまっている。


「いやあ、しかし走ったから暖かくなったような寒くなったような」

「足だけ寒いわ…」

「ワシは手だなー、ほれ真っ赤!」

「うわ!ちょ、手袋貸してあげるよ!」


霜焼けしているんじゃないかというくらい痛々しいほど家康の手が赤くなっているのを見て、鎌子は自分がはめていた手袋を外して彼に差し出す。
が、それを見ているだけで中々受け取ってもらえない。ん?と首を少し傾げていると手袋が自分の手から離れて彼の元へ行き渡った。


「それ、明日返してくれて大丈夫だから今日はそれしてなよ」

「…いや、2つはいらないな」

「ん?」

「1つは鎌子に返そう!」

「は?」


彼の元へ旅立っていった筈の手袋がものの一分で返ってきた、しかも片方だけ。なにこれいやがらせ?え?と不思議に思っていると右手を取られ、片方だけ手袋をはめられた。


「暖かいか?」

「え?う、うん…?え、手袋いらないの?」

「いや、こうした方が2人共暖かいだろう!」

「っう、わ!」


ぎゅ、と、左手を握られ指を絡ませられた。片手に手袋、もう片手には家康の手。
これはいくらなんでも恥ずかしい!漫画とかでよく見るよこれ!恥ずかしい!と、顔を真っ赤にして振りほどこうと手を引いてみるが全く動じない。恥ずかしさと戸惑いがMAXになり、家康を見上げるとその顔はとてもうれしそうに微笑んでいた。


「は、はなし、て、よ!馬鹿!」

「いいじゃないか、手袋と鎌子の手で両手とも暖まるし鎌子も寒い思いをしなくて済むじゃないか!」

「私は別に大丈夫だから!手袋貸してあげるから!」

「ワシは手を繋いで帰りたいと思っている…駄目か?」

「うっ…」

「そろそろ、もう少し近付きたいんだが…嫌か?」

「え、…っと……」


困ったように少し微笑む家康。
その表情に弱く、本心では自分も手を繋ぎたいと思っていたので嬉しいことこの上ないのだがどうしても恥ずかしさが消えない。家康に頼ってばかりでは駄目だと、自分ももっと歩む寄らないと駄目だと理解しているのに行動に移せないもどかしさ。
何も言えず足元を見ていると繋がれている手を軽く引かれて、思わず顔を上げる。


「別にこれから毎日ってわけじゃないさ。ただ、今日は寒いしなんだかワシも寂しくてな!だから、今日だけでもいいから繋いでてもいいか?」


学校や友達の前で見せるような太陽のように元気いっぱいな笑顔と違い、眉を少し下げて笑顔と言うより微笑んでいる家康。学校で笑っている家康ももちろん家康だが、今ここにいるのはきっと何もかも隠さず全てを見せてくれている“家康”なのだろう、と思うと鼻の奥がつんとした。
軽く唇を噛み締め、小さく深呼吸をしてから一歩足を踏み出す。手は、繋がれたまま。


「寒いから、早く帰ろ?」


恥ずかしさを隠そうとしているせいでぎこちない笑顔になってしまうが、気持ちが伝わるよう目を逸らさずに家康を見つめる。繋いでいる手がつい強張ってしまい、震えてしまいそうになるのを必死に抑えようと自分の右手をぎゅう、と、強く握りしめる。
鎌子の言葉を聞き、ぱあ、と、本当に嬉しそうに笑う。


「ああ、帰ろう!」


止めていた歩みを、再開する。緊張してしまい歩くスピードが落ちてしまった鎌子に合わせるよう、家康もゆっくりと歩く。


「(あああああ、恥ずかしい恥ずかしい!けど、嬉しいか、な……あああでも恥ずかしい!)」


視線をどこに向けたらいいのか、足をどう動かしたらいいのか、繋いでいない右手はどうしたらいいのか。瞬きってどうやるんだっけ。全てのことが緊張のあまりわからなくなってしまい、それでも自分を必死に保とうと右手を強く握っては開いたりともぞもぞと動かしてしまう。
そんな彼女とは対照的に、家康は普段と全く変わらないー…いや、とても嬉しそうにゆっくりと足を動かしている。そして、繋いでいないほうの左手で彼もぐっ、と握り拳を作る。緊張を落ち着かせるためではなく、嬉しさとにやけてしまいそうになる顔を押さえるために。

スクールバッグを奪って走った辺りから全て家康の計算通りに事が進み、鎌子とこうして手を繋いで帰れる幸せを噛み締めながら、次はどういう作戦で壁を壊そうかと模索中であるなど足を動かすだけで精一杯な鎌子は気付く筈もない。


「(本当に鎌子は可愛いな!こんなに緊張していて!困った顔も大好きだ!)」


ちらりと横目で鎌子の姿を見て、ふふふ、と、小さく笑う。


「(あと少しで壁も取り払えそう、かな?)」


ぎゅう、と、繋いでいる手を少し強く握ってみると予想通りびくっと動いたが、それでも振り払われる気配はない。ああ、ワシは今一番幸せだ!改めて幸せを実感し、ゆっくりとゆっくりと道を歩いて行く。




壁崩壊まで、あと数日。
カウントダウンの、始まりです。








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