シロノワール

―チリンチリーン…


「ありがとうございましたーっ」


まだ始まって30分しか経ってないだなんて…、私もう帰りたいです。11月なのになんでもうこんなにクリスマス意識してんの?クリスマス?は?私には関係のない行事なんですけど。しかも土日って意味がわからない、今の僕には理解できないアンインストール!誰かクリスマスをアンインストールして!

「首切さーん、悪いんだけどあっちのテーブル片付けてもらえる?」

「あ、はーい」

ふきんとトレーを持って今出て行ったお客さんがいたテーブルを片付ける。あ、豆残してる。いやしかし、なんだか最近カップルがよく来るようになった気がする。そんで仲良く「クリスマスどこ泊まり行こっかね」とか話してるのを聞く気がする。きいいい爆発しろおおおお!!!あれ、ほんの少し怒りを込めながら力強くテーブル拭いたせいかなんだかここだけやたらテーブル綺麗になった。そうか、次からこうやってリア充への怒りをテーブルにぶつければ綺麗にもなるし気持ちもすっきりするし一石二鳥ってやつか。あー、豆投げたい。


―チリンチリン…


「いらっしゃいま、せー…ぇ…?」


ドアが開いて鈴が鳴る音が聞こえたので振り返って声をかけたら、クラスメイトの石田君と徳川君がいた。びっくり。2人とも仲が悪い(というより、石田君が一方的に徳川君を嫌っていつも追いかけてる。そんな徳川君はいつも笑顔で楽しそうです)から一緒にいるところを見るのが凄く珍しい気がするし、2人ともこういう喫茶店に来るイメージがないから2つの意味でびっくり。…お店の中でいつも学校で暴れてるみたいに暴れ出したりしない、よね?


「(まあ、2人とは1回も話したことないしむしろ私のことクラスメイトと認識すらされてないかもね)2名様ですね、こちらのテーブルへどうぞ」

「ほら三成、行くぞ!」

「…」

「(すっごい睨んでる!もの凄い形相で徳川君のこと睨んでらっしゃる!)」


2人をテーブルへ案内して、お水を出してから少し離れたところで待機。え、石田君のオーラ半端なく怖いけど何なの?徳川君が無理やり連れてきたってパターンですか?いやしかし、2人ともここの雰囲気に合っているようで合ってないよね…ちょっと面白い。ぷぷぷ。「すみませーん」おっとと、呼ばれちゃった!え、誰も行かないの?え、え、私が注文受け行くのか…正直石田君のオーラに私まであてられて怖いです。


「ご注文お伺いいたします」

「えっと、アイスココアとアメリカンコーヒー」

「(どっちがココア飲むんだろ…)はい、かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


飲み物を運んで(予想通り徳川君がアイスココアでした)、しばらくしたら2人は出て行った。ありがとうございましたーっと。あー、あと数時間頑張るぞー!ああでも今日から6連勤なんだった…ぐすん、こんなにバイト入れるんじゃなかった…。「首切さん、これあそこのテーブルにお願い」はーい、了解でーす!さて、気合い入れ直して働くぞー!



* * * 



「鎌子ちゃんは今日もバイトですか?」

「そうだよつるちゃーん、昨日から6連勤がスタートしたんだよーう…」

「ばしっと頑張ってください!」

「だらっと頑張ってきまーす」


教室で鶴姫ちゃんとお別れして、今日もバイト先に向かう私です。ふいー、寒くなったなあ。そういえば昨日のことがあったから今日の朝とか徳川君に「昨日、喫茶店でバイトしてたな!」とか声かけられたらどうしようって思ったけど特に何もなかったな、石田君は何もアクションないだろうって思ってたけど。やっぱり2人とも私が同じクラスの人間だと気付いてないのかな、昨日声かけなくて良かった!「誰?お前」みたいな顔されるところだった…!あ、なんだかココア飲みたくなってきたなー。賄いでココア作ってもらおっかな。

「おはよーございまーす」

さて、2日目頑張るぞー




「鎌子ちゃん、あそこのテーブル注文お願いー!」

「おっけ、りょうかーい」

伝票伝票っと、えっと、どこのテーブルのお客さん…が…

「…」

「おまたせいたしまし、た…」


え、まさかの石田君?ていうか、え?いたの?気付かなかった!そして今日は一人なのね!いや別に一人でもいいしおひとり様大歓迎だよ、だからそんな睨まないでください


「…アメリカンコーヒー」

「アメリカンコーヒーですね、かしこまりました」


営業スマイルをひとつにこりとしてからそそくさと厨房の方へ避難。うわわ、びっくりした。2日連続で石田君を見るなんて誰が思いますか、2日連続で来るだなんて誰が思いますか、石田君怖いから心構えしておかないと心臓に悪いんだよ!嫌いとかじゃないんだけどね、好きでもないんだけど。「アメリカンコーヒーお願いしまーす」おっと、もう出来たのね。よし、もう心の準備は出来たぞ、さあコーヒー持ってくぞー!



* * * 



「鎌子ちゃん…今日で6連勤、最終日…?」

「そうだよお市ちゃん!今日が終われば6連勤の地獄から解放!」

「そう、頑張って…ね?」

「ありがとーっ頑張ってくる!」


6連勤最終日だぞー頑張るぞーもう3日目辺りから死んでたけど最終日だと思うと元気出る!不思議と寒さもあんまり感じないぞ!…いや嘘です寒いです。鼻水出る、ずび。いやしかし、あれから石田君毎日来てたよね、コーヒー飲みに。勉強したり本読んだりしてるけど5日連続でコーヒー飲みに来てるよ。肌黒くならないのかな…あ、石田君肌白いからちょうど混ざっていい感じの健康色になりそうだね。でもびっくりだなあ、そんなにここのコーヒーが気に入ったのか…今日の賄いで私もコーヒー飲んでみようかな。いつもと変わらない普通のコーヒーだと思うんだけどなあ、5日連続で飲みに来るほどの味に私がまだ気付いていないだけなのかな…

「おはよーございまーす!」

「おっ、今日は元気だねー!」

最終日ですから!さて、頑張るぞー!





―チリンチリーン…


「いらっしゃいませ、1名様ですか?」

「…ああ」


やっぱり今日も石田君来た、6連勤だよお揃いだね!石田君も6連勤お疲れ様です!アメリカンコーヒーだよね、知ってるよ!人ごみが嫌いそうな石田君のためになるべく奥の方のテーブルにご案内でーす、さあ注文をどうぞ!にこにこと営業スマイルで伝票片手にスタンバイです!…ん?なんだかそわそわしてるけど、トイレですか?トイレならあそこをまがって「おい」「はい!?」ななななんですかびっくりしたな、もう!!


「…貴様、同じクラスの首切だな」

「え…、え?」

「私は、同じクラスの石田だ」

「え?あ…はい。…え?」

「………アドレスを教えろ」

「………………え、アメリカンコーヒー…は?」

「コーヒーではない、アドレスだ」

「…え!?」


ぐしゃ。あ、伝票ちょっと握りしめちゃった!いやいやいや、そんなことより今何が起きてるんだ誰か説明プリーズ。アドレス?アドレスって新しいメニュー?いや、そんなのないし…え、メールアドレス?あのアドレス?石田君が?私のを?え、ちょっと誰かお水下さい1回落ち着きたいです石田君そのお水いただけませんか。いやすいません冗談ですだからそんなに睨まないで下さいすいません


「嫌か」

「え!?あ、いや、えっと、なんていうか…びっくりしちゃって」

「私のアドレスを教えておく、後でメールを寄こせ」

「え!?」


ごそごそを石田君が鞄からメモ帳を出して、さっさと自分のアドレスを書いて私につき出してきた。え、え、どうすんの、受け取るの?え?いやだからそんなに睨まないでください怖いです。あ、罰ゲーム?徳川君と何かゲームして負けた罰ゲームなの?


「さっさと受け取れ」

「ば、罰ゲームか何かなんですか…?」

「は?」

「え、だって1回も学校で話したことない、し…っていうかクラスメイトだってことすら知らなそうだし誰かに言われたのかな…とか。あ、だから6日も連続でお店来てたのか!」

「誰がそんなくだらないことをするか。それに貴様のことは初めてこの店に来た時からわかっていた」

「えっ」


ばんっ、と軽く机にメモを叩きつけ石田君が席を立って私を見下してくる。え、怖いです。


「とにかく渡したからな、待っている。送ってこなければ明日学校でどうなるかわかっているな」

「え、え、」

「今日は失礼する」

「えっ」


―チリンチリーン


「え、あ…っと、ありがとうございまし、た…?」


残されたのは私と、少しぐちゃぐちゃになってしまった伝票と、飲まれることのなかったお水と、石田君のアドレスが書かれたメモ用紙。
…これ、どうしたらいいの?っていうかどういうこと?それより石田君、私のことわかってたんだ…びっくり……。…わかってて、毎日来てたの?

「…いやいやいや、まさかそんな…」

どきどきどき。少し落ち着こう、うん。ゆっくり考えよう、そして思い出そう。…あれ、そういえば石田君、顔赤かったよね。どうしたんだろ…、……え?

「えええええええ!?」

「鎌子ちゃんどうしたの?」

「いいいいいやなんでもない!!!」


とっさにメモ用紙をエプロンのポケットの中に仕舞った。え、これって、そういうこと…なの?え?どきどきどきどき。なんか、さっきより心臓が早くなってきた気がする。あれ、顔も熱くなってきた、なにこれ。ちょっと誰か火照った私の顔の上に冷たいソフトクリーム乗せて冷ましてください。


とりあえず、夜にでもメールを送ってみようかな。なんて送ろうか、な。どきどきどき














――キリトリ――

【補足】
三成くんは鎌子ちゃんのことが前から好きなんだけど恥ずかしくて話しかけられなくて、それに気付いた家康くんと政宗くんが茶々入れしたりお市ちゃんや鶴姫ちゃんに色々聞いて協力してあげたりして鎌子ちゃんのバイト先+出勤日を知る。
1日目は家康くんが無理やり連れてきて偵察、本当は2日目にアドレスを聞くという作戦だったがシャイボーイすぎて失敗。そこから毎日通って鎌子ちゃんに慣れて、ようやく6日目にアドレスゲットだぜ!(無理やりだがな!)
三成くんも鎌子ちゃんは自分のことを知らないと思っていたとか。だから「同じクラスの石田です」って名乗ったのだよワトソン君。

舞台はタイトルのデザートが有名なあの喫茶店です。
熱々のデニッシュパンの上に冷たいソフトクリームが乗った美味しいデザートです。









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