このワガママ野郎!と口にしないだけまだ堪えているほうです。憤慨したところで無駄なのだから仕方ない。たった今焼き上げたフルーツタルトを目前に、リクエストした本人が「やっぱりミルフィーユが食べたい」などと言っても仕方ない。カップに注がれる様を笑顔で見ていたくせに「アールグレイの気分じゃない」などと言っても仕方ない。仕方ない。仕方ないわけないがそう思わないといい加減やってらんねぇよクソが、あ、地が出てきちゃった…いかんいかん。



「勿体ないから我慢して食べてあげる」


フォークを持って憂う表情、呆れたように額に手を当てるジェスチャーは勿論演技ですよね。正直何を持ってこようがあべこべなこと言って私を困らすのだろう。
促されて着席する。柔らかな陽が落ちて包み込むフラワーガーデンの中の丸テーブルに敷き詰められたおやつの数々。漂ういい匂いにお腹が鳴った。
鹿や小鳥の姿が見られるここはミハエルの持ち家(城?)の敷地内だ。いちゃもんをつけたわりに黙々とおやつを口へ運ぶミハエルを横目にけったいなメイド服の裾を少し捲る。机の下には可愛らしい靴が覗いたがそもそもこういうのが合う気性ではないんだよなぁ。ため息を吐いたら不意に視線がぶつかった。小首を傾げるな、ちょっとときめくだろ。


「食べないの?」
「食べますよ。あー美味しい」
「刺があるね」
「ないほうがおかしいでしょう、あんな言われようで」



ふーん、と目を細められる。その顔すっごい怖いんですけど、うわ今のはアウトだったのか?些細なことで機嫌損ねるから注意してたつもりだったのに…


「ワガママとか思ってるでしょ」
「……いや、別に…」
「率直に言えば?」
「だから、」
「今まで欲しいもの、全部手に入れてきたんだ、僕」
「はぁ…?」


話に脈絡ないにも程があるんじゃないですか。疑問文張り付けて口付けた温いアールグレイ、吹き出すことになろうとは。


「ね、僕さぁ お前が欲しいの」


何を言ってるんだいこのお坊ちゃんは!これまでの発言全部が疑わしいよもう。私なんぞ狙ったところでどんなメリットが…暇つぶしか、そうですよね。
無意識に手づかみしていたのは投げ付けるにしては美味しそうな度が過ぎるフルーツタルト。いかんいかん。落ち着け。







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