例えば俺は彼女の髪や眼の色でさえよく知らなかい。格好を付けるのが目的だったサングラスはもはや体の一部と化していて、今では無いと落ち着かないレベルにまでなってしまい、だからいつだって赤いような橙のような膜を一枚通して世界を見ていた。

付けっぱなしのサングラスなんて普通は取りたがりそうなものだが名前は別段気にならないという。どうでもいい、と。その姿勢、嫌いじゃないがクールでいるのとつれないのじゃあ大分意味が違ってくるんだぜ?


「興味ないよ」
「またお前はそういう…」
「ブレットだってそうでしょ」
「?」
「興味ないんでしょ?だったら別にいいじゃん、取らなくても。見る気ないなら」


早口でまくし立ててそっぽを向かれてしまった。話の流れが妙だ。見る気とは、つまりどういうことだ?見て欲しいのか?


「頭いいくせにそういうとこわかんないんだね」
「心外だ」
「どっちが…、あ」
「…やっぱり眩しいな」


サングラスをするりと外したら彩色が突き刺さる。鮮烈。日中は特に見覚えのない景色ばかりで、知らぬ間に木々の緑は深みを増していた。四季の目まぐるしいこの国は足早に夏へと向かっていた。季節感すらそぞろだった。

(完全に置いていかれてるな)

もしかしたら逃げ腰だったのかもしれない。隔てていればいいものだと、いつの間にか勘違っていたのかもしれない。
何を。外を。妙なプライドと意識で遮断していた。
感慨に耽っている俺を名前は物珍しいと言わんばかりに見つめてくる。見返すと俯いてしまった。彼女の左手は俺の右手からサングラスを奪っていった。


「…かっこいいのに、隠したらもったいない」


ああ、確かに勿体なかったよ、頬を赤くしてるお前がこんなに可愛いことに気付けなかったなんてさ。

真っ白い掌中でおとなしくしていたそれを名前は装着した。どう?ときかれてもあまり似合っていないから笑ってしまった。意を察したのか鼻を鳴らしてすぐ突っ返される。おかえり相棒、もう彼女の前では用無しだな。

しかし…


「外してるとエッジが怒るんだ」
「なんで?」
「女の子がみんな俺の方に来るからってさ」
「………あっそ…」
「なに、不機嫌?」
「別に」
「かーわいー」
「棒読みで言うな!」
「アウチ!」





0523/ライト