まず身体が呼応して、
次に意識が浮上した。

目を開けるのは一番最後だった






「ミラーくん、朝ですよう」



そんなことは知っている。
かたく眼を閉じていたって、まぶしい光は容赦なく瞼を貫いてしまうから。
まどろみ、低迷していく思考。
苦しみなく、温かい海に溺れているみたいだ。
ずぶずぶと沈むようにシーツにくるまる。
丸くなって眠る猫の気持ちが今ならわかる。


ただ、女の声がそれを許さない。




「みっ、らぁ、くーん!」

「うざい…」

「ひどいんですけど」





だいたい何故おれはこの女に叱責されるように起こされているのだろうか。
疑問を口にしようとしたが、いかんせん、開口一番で声が掠れてしまう。
上手く話すことができない。
代わりに低く唸ってみせた。
これじゃあ威嚇する動物みたいだ。
いつもの自分ならカッコ悪くて絶対にやらない。
睡魔のせいなら仕方ない。
そうやって自分を棚にあげる。

安眠を妨害されたのだから、気を悪くするくらいの権利は当然あるはずだ。



「ミラーくんのおねぼう」
「んー…」
「きのう何時にねたの?」
「4時」
「うん、きのうじゃないね!今日だねそれは!」
「うざい」
「ひどい」



頭はまだぼんやりするが、意識の一部はもうほとんど覚醒してしまったようだ。
一応、会話が成立している。
残念なことに。

今日は一日何もない。
だからいつまでもこうしていたって、ひとつも問題ない。
詰めこみ過ぎたカリキュラムの、ひとときの休息だからむしろ正しい。


寝返りをうって枕に顔をおしつける。
もう寝る気は失せてしまった。
こうなれば意地しかない。
うっすら開いていた瞼を、再びかたく閉じる。

ベッドの端に上体を預けながら、彼女はおれを呼びつづける。
声の発信元がちかい。
同じ高さに顔があるなんて、思えば初めてなんだろうな。




「もう朝っていうかお昼なんだよね、もう」
「へえ」
「起きてごはん食べようよー」
「むり」

「ねぇミラー」



こいつが名前を呼ぶからいけない。
シーツを頭まで被るように引っ張った。
もうしばらくは此処から出れそうにない。





0527/レフト