生意気な小娘だと毒吐けば、生意気じゃなきゃ子どもなんてやってらんないのよとまた生意気なことを言う。


「厩務員も大変だな。馬だけじゃなくガキの世話もしなきゃならねえ」
「オーナーのむすめが『けいえいじょう』にいてなにがわるいの」
「うろちょろ邪魔くせえのは罪だろうよ」
「シメるわよ」
「オレの首まで手が届くようになってから言いな、そんな大それた台詞は」


アマゾンはわざわざ頭を低くし目線を合わせ、喉を震わせて笑う。安い挑発にあっさり乗ってしまう名前はやはり子ども。ひどく不満そうな顔を見せてから、小さな掌はありったけの力をもってアマゾンのマスクを剥ぎ取った。


「おい」
「ふうん。けっこーぺらぺらなのね」
「さすがに怒るぜ、度が過ぎりゃあよ…」


どいつもこいつもお前に甘いのが気にくわない。そうは言っても結局アマゾンは怒りはしない。まるで帽子のように頭にマスクを乗っけて名前は笑う。


「ほかのうまがいってるよ。アマゾンはふなばしのえーゆーだって」
「大層な通り名だなまったく」
「えーゆーってなに?」
「携帯会社の名称」
「からかわないで!」
「ヒーローってことさ」
「そう。アマゾン、せいぎのみかたにはみえないけどね」


歌うように軽口を流す。幼い彼女には知らないことのほうがたくさんある。地方の夢、なんてきっとその小さな胸の内では計り知れないだろう。


「いつかわたしものせてね、アマゾン」


賭け値なしのお願いは愛らしい。マスクを再びアマゾンに被せようとしたがまったくうまくいかず、ごまかし笑いをする名前の頭を鼻先で小突いた。

英雄と子どもはなかなかうまくやっている。