いい加減拳が痛いし疲れてきた。魔界の森はより一層じめっとした空気で好きになれない。遠いのか近いのかもわからない、ギャアギャアと意味のない怪鳥の鳴き声を耳をふさいでやり過ごす。

「あーあ…」

ため息を吐いて岩に座り込んだ。コンビニ袋からチュッパチャップスを出してくわえる。飛影を探し始めて何時間経っただろう。蔵馬はあそこらへんのここらへんにいますよとかよくわからない助言をくれたけど、どこの木で寝てるんだかまるで見当がつかない。名前を連呼したら逆に出て来なさそうなのでとりあえず手当たり次第木を殴り続けてみた、結果はまだ現れない。カブトムシか。
また腰を上げた。伸びをして不揃いな木々を眺めると、もう諦めようかという気にもなる。あと一本、もう一本だけ、と騙し騙し殴り倒すのにも飽きてしまった。そのうちどうして飛影を探しているのかという目的すら忘れてしまったのだから泣きたい。今としては半ば八つ当たりの捜索だった。最悪だ…。

「飛影のバカヤロー!」

ごぉん…!と重い音を立ててしなった木。ざわ、と葉が震え、ほんの一瞬なにかと目が合った気がした。あれはもしや、一瞬判断が遅れて目を細めているとザザザ、と明らかになにかが移動していく。

「ちょっと、コラァ!飛影!」

確信があった。後から追い掛けようにも中々すばしっこいので、先回りした木を蹴り飛ばす。妙な方向から力が加わった為に反動で飛影は投げ出され、私の前に黒い塊が着地した。不機嫌そうに見られるがきっと私も同じ顔をしている。

「なんの用だ」
「探し疲れて忘れたよそんなもん」
「……………」
「……飛影でもそんな哀れみの目ができるんだね…」
「殺すか」
「それはできないでしょ」
「……………」

妙な沈黙が気まずい。握りしめたコンビニ袋にはまだ中身があった。ああ、そうか。

「飛影、飛影」
「なんだ」
「口開けて」
「は?……!!」

飛影らしくない油断した口めがけて光の早さで突っ込んだチュッパチャップス。ゲロ甘と評を博すチョコバナナ味を選んだのは嫌がらせ以外のなにものでもない。
予想ではすぐ吐き出されてどつかれるものだと思っていたのに飛影はそうはしなかった。ふて腐れた顔、口の端から棒が覗いていると妖怪でもなんでもない、ただの悪ガキに見える。

「びっくりした?」
「…貴様」
「顔赤いよ?」
「……………」
「おいしい?」

最後は駄目元の質問だったけど、悪くはない、と返される。充分すぎる答えだった。