最悪な朝、というのは雨音で目が覚める、それ。ここまで苛立つ起床もそうない。緩い意識下から引き戻すべく締め切った窓を容赦なく叩きやがる水の粒供、得も知れず憤慨しながらもう一度眠ろうと寝返りを打った瞬間、雨よりももっと騒々しい音がこちらに向かって進んでくる。奴だと思った矢先、足の向こうにあるドアが勢いよく開いた。本当に最悪だ。


「グッモーニン!あれ、イタリア語だとおはようってなんて言うんだっけ?まぁいいや、起きろカルロ起きろカルロ!」
「うるせぇな…!」
「なんだ、起きてんの?布団から出なよ」
「てめぇに指図受ける謂れがねぇ。失せろ」
「今日は一日雨だっていうから計画的にDVDを借りてたんだよ、偉いっしょ」
「…………」
「あっこらシカトこいて寝るんじゃない!」



一々応対するのが煩わしいので掛け布団を頭まで被ったら即引きはがされた。わかった、一発といわず俺の気が済むまで殴ってやる。そう思いながら上半身を起こすと満面の笑顔で迎えられた。気色悪い。


「うぜえ」
「機嫌悪いのは寝起きだから?それとも…」
「それ以上言ったら殴る」
「わかった、じゃあ一緒に見ようよDVD!」
「じゃあの意味がわかんねーよ。中身は」
「フランダースの犬」
「誰が見るか」


しかし一回食いつくとそう離れないのがこいつの特徴というか駄目なところで、気付くと俺は床に足を付けていて更に手を引かれていた。すっかりペースに乗せられている。振り払えばムッとしやがる。面倒くさい奴。


「そんな態度だとジュリオとイチャイチャしながら見ちゃうかんね私」
「カマ菌がうつるぞ、やめとけ」
「ひどい…」
「アホ女」
「暴力男」


背を向けリビングへ進みながらも文句を垂れていると後ろからケツを叩かれたので脳天をぶっ叩いてやった。奇声が流れる馬鹿馬鹿しい朝。憂鬱、しょうもない時間をこいつと一緒にだらだら過ごしているわけだが、あれほど嫌っていた雨はいつの間にかすっかり気にならなくなっていた。





0419/ライト