すこし寄り道してもいいですか?と問われる。
もともと行きたい場所なんてなかったので、もちろん了承する。
彼は近くにあったコンビニへと入っていった。
「何か買うの?」
「ええ」
エーリッヒはきょろきょろとしながら、商品棚のあいだをすり抜ける。
目的があるようには見えなかった。
ぐるりと店内を一周して、ようやく買うものを決めたようだ。
エーリッヒは、一本のビニール傘を手にしていた。
「傘…?」
「ええ」
「今日は晴れだよ、エーリッヒ」
晴れた日にビニール傘を買うなんて、とても愚かなことのひとつだ。
そのままレジへとすすむ。
私の胸中は疑問でいっぱいだ。
けれど店員はいたって普通に、気だるい声で値段を読み上げている。
晴れた日にビニール傘を買う愚か者は、思っている以上にいたのかもしれない。
店を出て、空を見上げる。
雨が降るとは思えないくらいの晴天だ。
「案外無いものですね」
「なにが?」
「武器になるもの」
エーリッヒは傘を持ち直した。
柄の部分ではなく、先の方を手にしている。
そのまま二、三度スイングしてみせた。
軽く風をきる音がした。
傘をさすポーズとはかけはなれている。
一連の行動の意味が汲み取れなくて、エーリッヒに目でうったえる。
彼は、勘がいいの。
「今からそいつを殴りに行きましょうか」
それはもう素敵な笑顔でした。
(0422/レフト)