捧げもの | ナノ


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「カカシ。おはよ」

「お、おはよ、名前」


朝の待機所は、とても賑やかだ。
俺の情けない、どもった声も掻き消される。
名前、やっぱり今日も可愛いな…。
目の前で、満面の笑みを向けてくれている名前。
まるで、俺の告白なんかすっかり忘れてしまっているようだ。

そう。俺は数日前に告白をした。
返事は、まだもらってない。
忘れてる、なんてことは流石にないだろうけど。
ここ何日か、返事をくれるには十分な時間もあった。
なのに、名前はくれなくて。
俺から聞けばいいのかもしれないけど、怖くて聞けなかった。
名前は告白後も、変わらず話をしてくれる。
以前よりからかわれてることが増えてる気がするけど。
それでも、丸っきり会話をしないよりは何百倍もマシだ。
でも、返事を聞いたら、もう今までみたいに話せなくなるかもしれない。
そう考えたら、とても自分から聞く気にはなれなかった。
全く、情けない話だけど。
俺のプライドとか今までの経験とか勘は、名前の前だと、全て脆く崩れてしまうんだ。

目の前の名前を、ちらりと見る。
告白前と変わらない、いつもの表情。
緊張しているようにも見えない。
普通に会話もしているし、もしかしたら恋人は嫌だけど友達ならいい、と考えているのかもしれない。
だから返事をくれないのだろうか。
このまま、何事もなかったかのように過ごすのだろうか。
一人で真剣に悩んでいたら、名前の声がした。

「カカシ?何眉間に皺寄せてんの?」


頬っぺたを両手でつままれて、至近距離に名前の顔があった。



首ったけの
(え、何、)



「どうしたの?急にぼうっとして」

「あ…ごめん、何でもなーいよ」


カカシはひどく戸惑ってるみたいで、見えてる顔がほんのり赤い。
もしかして、照れてるのかな?
無理矢理笑顔を作ってます感が満載な表情を見て、思わず笑ってしまった。


「な、何よいきなり笑って」

「あはは。何でもないよ」


面白くなった私は、カカシの頬っぺたをつねり始めた。


「い、痛。ちょ、名前」

「ちぇ、口布あるから表情がわかんないな…」

「痛いからやめてちょうだいよ」

「ごめんごめん」


カカシの本当に痛がってそうな顔を見て、つねるのをやめる。
でも、手はカカシの両頬に添えたまま。
手を離したいけど、何となく離したくない。


「名前?」


カカシの声が私を呼ぶ。
それを無視して、カカシの頬っぺたをぷにぷにする。
ずるい、何でこんなに張りがあるのかな。それに男の人は何もしてないのにはずなのに、何でこんなに肌が綺麗なのよ。


「名前」


強い声がする。
顔を見れば、怒ったような真面目な顔つきのカカシ。


「名前は、俺のことどう思ってるの」

「え」

「返事くれないし、でもこうやって会話してるし。触ってるし。俺のことどう思ってこういうことしてるの」


語尾にはてなマークがついてない辺り、返事をしないことに痺れを切らしたみたいだ。
そろそろ限界かな。
はぁ、ゆっくりため息をつく。
もう終わり、か。



首ったけの
(楽しかったのにな)



俺の頬っぺたを触ったままの名前を、半ば睨みつけるようにして見つめる。
どうしてはぐらかすのに、こうやって期待させるようなことをするんだろう。
ドキドキした鳴り止まない心臓を抱えながら、名前に問う。
はぁ、ため息が聞こえた。
どこかつまらなさそうな顔をした名前を見て、何となく返事がわかってしまった。

俺は、友達止まりだったんだ。


「カカシ、今まではぐらかしててごめんね」

「別にいいよ、」


返事はわかったようなものだけど。
名前の口から聞いて、玉砕したいと思った。
そうしたら、もういらない期待などしないから。
あれだけ不安だとか言ってたのに、今の俺は違った。
その心境の違いに、心の中で自嘲じみた苦笑をする。


「楽しかったの。カカシが返事を気にして私と話すと挙動不審になってるのが、見てて飽きなくて。
だから、いつもよりたくさんからかっちゃった。今もそう。」

「…そうだったの」


最近からかわれてることが前より増えてると思った。
あれは気のせいじゃなかったんだ。


「でも、そろそろカカシも限界だよね。
…私ね、カカシのこと、」


その時突然視界が暗くなった。
柔らかいものが目に押し当てられている。


「好きだよ」


耳元で、名前の甘い声がした。



で首ったけ
(それは愛の言葉)



「…へ?」


柔らかいものがなくなって、視界が開けたと思ったら。
名前がはにかみながらこっちを見ている。
掌が俺の方に向いているから、どうやら名前が自分の手で俺の目を隠したようだった。


「………」


ぼんやりとそのことはわかっても、言葉の意味を理解するのには数秒かかった。
何度も脳内で反芻して、言葉の意味がわかった途端、耳まで赤くなった。


「俺のことからかってるって、さっき言ったじゃない」


精一杯声を張って言ったが、語尾が震えた。

こんな時まで情けない俺を見せるなんて、恥ずかしいにも程がある。


「それはね、私のこと気にしすぎでああなってるんだなって思ったら、可愛いなって思えちゃって。だから、からかうの止まらなかったのよね」

「そんな、理由?」

「それ以外に何があるの?」


名前の「ふふ、楽しかったよほんとに」と言って笑った顔を見て、緊張の糸が解けた。
はあーと盛大なため息をつく。
全ては俺の勘違いだったらしい。


「振られると思った?」

「まーね…」

「だからさっき、あんなに辛そうな顔してたんだ」

「そんなに辛そうだった?」

「うん」

「ははは…」


腑抜けた笑い声を出す。
名前にこんなに情けない姿ばかり見せてしまって、恥ずかしさを通り越して自分に呆れてしまう。


「これからよろしくね、恋人のカカシさん」


名前はそんな俺の胸中を知らずに、にっこりと満面の笑みで手を差し出してきた。


「こちらこそ」


俺は、しっかりとその手を握った。



首ったけの
(これからはずっと一緒だーよ)



おまけ

「そういえば、何でさっき俺の目隠したの?」

「恥ずかしかったのよ。あんなにじっと見つめられたら言いにくくて」

「え?そんなにだった?ごめーんね」

「じゃあ今夜泊めてくれたら許してあげるね」

「え!?」



おまけ終わり

→あとがき→


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