1/2 「また間違えてる。この数式はこっちで使うの」 「…そうだっけ?」 「はぁ…まったくこの子は…」 「名前、お前前回の期末と今回の中間、赤点だったな」 「はい…」 放課後、数学のはたけ先生に呼び出されて。 「お前、このままだと成績ヤバいよ」 「わかってます…」 マスクと髪の毛のせいで、右目以外顔が隠れてるはたけ先生。 そのせいで何考えてるかわからないけど…何となく声が怒ってる。 こ、怖い。 「俺も振り返ってお前のテストを見てみたが、数学を根本的に理解してないな」 「そ、そうなんですか…?」 「わかってなかったの…。例えばこの問題。この数式はここに使うって何回も言ったし、同じ問題も何度も解かせたのに、名前は全く違うこの数式を使っている」 「…??」 「…言ってる意味わかんない?」 「はい…」 「…………。」 「ご、ごめんなさい」 とりあえず謝る。 だって本当に先生の言ってる意味わかんないし。 数学苦手だし… そんな私を見て、先生ははぁとため息をついた。 「…わかった。お前だけ特別に補習してやる。他の奴等はプリントだけなんだけど…今の説明がわからないんじゃ、お前一人じゃ解けないだろうし」 「補習、ですか?」 正直言ってやだなぁ…。 何考えてるかわからない先生と一緒にいるなんて、考えただけでぞっとする。 気まずすぎるし。 アスマ先生とか、テンゾウ先生ならいいんだけどな。 「名前は授業態度良いから、できれば救いたいしね。それに、数学の成績一になりたくないでしょ?」 「はい…じ、じゃあ、よろしくお願いします…」 一は本当に困る。 仕方無しに渋々頷いた、ら。 「ん。あ、ちなみに補習は期末まで毎日やるからね」 「は!?」 私の声に、先生は当然とでも言いたげな顔をした。 「当たり前でしょ。名前数学全然わかってないんだから。こんなんじゃ次の期末もひどいと思うよ?」 「う………」 「成績一になりたいの?」 「わ、わかりました…」 結局私は、先生に抗う術がわからずに、嫌々ながら了承したのだった。 懐かしいな…。 このやりとりからかなり経つ。 私はぼんやり補習プリントを眺めながら、当時のことを思い出していた。 最初は補習なんて嫌だった。 でも、問題が解けた時の先生の笑顔が好きになって。 「よくできたーね、名前」 そう言って嬉しそうに頭を撫でてくれる先生を、いつの間にか好きになってたんだ。 「だからね?この問題はこれを求めてるから、こっちの数式を使うの。名前の使った数式は、求めてる答えが違うでしょ?」 「あ…ほんとだ! じゃあ、これ使って…できた!答えこれ!?」 「ん…正解!よくできたーね」 大好きな顔。 ふわりと頭を撫でられて、私は気持ち良さに目を細めた。 最初こそ使っていた敬語も、気付いたらタメ口に変わっていた。 先生は嫌そうな顔をしなかったから、そのままにしている。 距離が縮まったみたいで、すごく嬉しい。 「じゃあ次の問題ねー」 「え、えっと…」 先生の声で、意識を戻す。 あれ?この問題は…どうやってやるんだっけ!? 「見覚えあるでしょ?これ昨日やった問題だからね。 ちゃんと覚えてるか、復習だーよ」 「わ、忘れちゃった…」 うわあああどうしよう! わたわたしてる私を見た先生の顔は、若干呆れていた。 やだ……そんな顔しないで。 そう思うとじわりと涙が出てきた。 「ほんとにわかんないよ…」 ぼそっと呟く。 涙が目から溢れそうになる。 と、頭に温かい感触がした。 「そんなことないよ。今は焦って、ちょっと混乱してるだけだーよ。人間いくら何でも、昨日の今日で忘れたりしないから。 名前はやれば出来る子だから、もう一回よく考えてみて」 先生を見れば、とても優しい目をしていた。 「わかった…」 問題をよく見て、考える。 んーやっぱりわかんない…… あ、でもこれ確か間違えた問題だったかな…? んーと、んーと、確かここがこうなって… 「あ、で、ここをこうするんだ!」 書きながら思い出していって、私は大きい声で叫んだ。 「うん…よし、正解だ!」 「ほんと!?」 慌てて先生の方を見ると、にっこり笑った大好きな顔。 「よくできたーね」 そう言って頭を撫でてくれた。 今度は別の意味で涙が出そう…。 「…先生ありがと」 小さく、先生を見ると。 「ん。どういたしまして」 やっぱり笑っていた。 その笑顔に、思わずきゅんとした。 あーあ。そんな顔しちゃって。 俺がどれだけ我慢してるかわかってるの? 名前の顔を見ながら、内心ため息をはく。 いや、わかってないな。 その笑顔だって、どうせ無意識なんでしょ? 「はぁ…」 にしても俺も…まさか生徒にこんな感情持つなんて、まだまだダメだねぇ。 「私ね、もっと勉強頑張る」 名前はきらきらした目で言う。 頑張らなくていいよ。 そうすれば、ずっとこうしていられるから。 って…何考えてんの自分。 「先生が、誉めてくれるのが嬉しいんだ」 「そーなの」 「だから、補習が終わってもこうやって誉めてほしいな…。 そ、そうすれば私ももっと伸びると思うし!!」 恥ずかしかったのか、取って付けたような言い訳を早口で言う名前。 ちょっと…そんなに真っ赤にならないでよ。 俺だって、教師の前に人間で男なんだからさぁ。 「先生…?どうしたの?黙っちゃって」 「ん?な、何でもなーいよ?」 「そ?あ、先生にもよしよししてあげる!」 「は?え、ちょっ…」 言うが早いか、名前は椅子から立って、俺の頭に手をのせた。 「いつも、馬鹿な私に勉強教えてくれてありがと。 …これからも教えて下さい!」 ぱあっと、花が咲いたような顔で笑う名前に、俺の心臓はどくんと高鳴った。 ちょっと…さすがに今のは、 「…もう我慢できそうにない」 「え?私に勉強教えることが?…きゃっ!」 「違うよ、」 お前があんまり可愛いから、もう我慢できなーいの。 俺の腕の中で、名前は静かに真っ赤になっていた。 これ以上ドキドキさせないで (あー、もう可愛すぎ) 「せ、せんせ」 「あ…ご、ごめーんね」 「やっやめないで!」 「!」 「も、もうちょっとこうしてて…」 「…いいの?」 「…………うん」 →あとがき→ ← 戻 → |