1/1 …雨が降ってきた。 茶屋を出た。 さっきまで彼氏だったアイツは新しい彼女ができたと言って、可愛らしい女の人を連れて私の前に二人で座った。 アイツに私以外の女の人がいるのは何となく気づいていたし、何より私はもうアイツといても何も感じなくなってしまったから別れ話を承諾した。 今頃アイツは新しい彼女と楽しくお茶でもしているのだろう。 茶屋を出て歩いていたら、雨が降ってきた。 …今の寒い季節に雨はキツいかもしれない。風邪引くかも。 そんな考えが頭をよぎったけど、茶屋になんて戻れないし、傘もないしどこかの店に寄るには懐も寒い。 はは、何か私、可哀想だな…。 でも、はやく家に帰れば、きっと大丈夫だろう。 気分転換も兼ねて熱いシャワーを浴びて、ぐっすり眠れば風邪なんて引かない。 うん。大丈夫。はやく帰ろう。 そう思って足をはやめたら。 「傘、ないの?」 男の人が話しかけてきた。 銀髪をなびかせて、傘を持っている。 顔を見れば右目以外隠れていて。 …すごく怪しい人だ。 「…ないですよ」 私がそう言うと、彼は返事の遅さには構わず、 「傘、貸そうか?」 右手の傘を差し出してきた。 「結構です。あなたが濡れちゃいますし」 「だーいじょうぶ。俺風邪引かないし」 そう言ってニコッと笑った。 「でも、やっぱりいいですよ。家も近いし」 私は彼の好意を断った。 愛想を尽かしたって、彼氏と別れたことは辛いし。 今の気持ちを雨に流してもらいたい気もしたし。 何より見知らぬ人から物など借りられない。 そんな私の気持ちに気づかず、彼は爆弾を落とした。 「そっか。風邪引いても彼氏に看病してもらえばいいもんね」 「彼氏とはさっき別れました!」 思わず即答して、しかも声を荒げてしまった。 知らない人にキレるなんて恥ずかしい。 だけど今はそれに触れないでほしかった。 「あ〜…はは…ごめーんね?」 彼は頭をポリポリ掻きながら、困ったように眉を下げ謝る。 「…こちらこそ、すみませんでした」 私はぺこりと頭を下げて謝ると、じゃあと言って歩きだそうとした。 「あの、さ」 彼は私の腕をぎゅっと掴むと、 「もし君が風邪引いたら俺が看病してあげるから、大丈夫だーよ」 短い会話の中で二発目の爆弾を耳元で落とした。 顔が赤くなっていくのが、全身で感じられた。 風邪引きさん (はやく風邪引けばいいのにと思ったのは、きっと気のせい) ← 戻 → |