1/1 名前は読書が好きだ。 待機所では、ずっと本を読んでいる。 かさりと、その細くて長い指がページをめくる。 眼鏡の奥にある優しい感情を、いつもより少し溢れさせて、ゆっくり、ゆっくりと。 「それ、そんなに楽しいの?」 「! カ、カカシさん」 「どーも」 手を上げてお決まりの挨拶をする。 俺が隣に座ったことに、どうやら気付いていなかったようだ。 本好きだからしょうがないのかなと思いつつ、若干寂しさを感じる。 「何読んでるの?」 だがそんなことをおくびにも出さず、名前の茶色い目を見ながら聞く。 頬を赤らめているのは、あまり男性慣れしていないからなのだろうか。 「恋愛ものです」 言いながら、ちらっと表紙を見せてくれた。 そこには、俺も知っているタイトルが書かれてあった。 「俺もこれ知ってるよ。読んだことないけど」 「本当ですか?これ、とってもいい話ですよ」 「どーいう内容なの?見せて」 「っ!」 名前に近付いて、活字を目で追う。 名前の顔はますます赤くなった。 「こーいうのが好きなんだ?」 現実ではなかなかやれないような、言わばべたべたな恋愛小説から名前に視線を移した。 「はい。べたですけど」 「そうだーね。あ、この話の主人公も眼鏡なのね」 「そうなんですよ。親近感湧いちゃって。だからこんなに好きなのかも」 ふふっと嬉しそうに笑う名前に、思わず胸が高鳴った。 その顔は反則でしょーよ…。 「にしてもロマンチックだねーこのシーンとか」 俺は悟られないように平静を保ちながら、名前の開いているページの一部分を指差した。 主人公と男が想いを寄せ合うシーンだ。 男が主人公の眼鏡をそっと外し、甘い言葉を囁いてキスをする。 二人はたっぷり見つめ合って、晴れて恋人になる。 名前はうっとりとした表情を浮かべた。 「私、そのシーンすごく好きなんです。眼鏡の距離すら遠いから外すよって、そのくらい人を好きになることってあんまりないと思うから。密かに憧れなんですよ」 恥ずかしそうに笑う名前。 気付いたら勝手に言葉が出てた。 「…それさ、俺がやったらだめ?」 「え?」 名前の眼鏡に手をかける。 「ちょ、カカシさ…」 「嫌なら言って?やめるから」 眼鏡を外して、素顔の名前をさらけ出す。 真っ赤な顔で俺を見る名前の目は、困惑でいっぱいだった。 「からかうのはよして下さ…」 「からかってなんかなーいよ。これでも本気」 「……はい」 か細い声で、震えながら静かに目を閉じた名前に煽られながら、 「…ずっと好きだった」 耳元で囁いて、ゆっくりと唇を合わせた。 眼鏡だって遠い (外しちゃえば大丈夫) 「夢みたいです…。私もカカシさんのこと、ずっと好きでしたから」 嬉しい、と涙ぐみながら笑う名前に、もう一度キスをした。 「現実だーよ。ね?」 「…はい」 ---------------------- 100915 誕生日記念でした。 おめでとう!カカシ先生! 二人のくっつくシーン急ぎすぎたかな…。 ← 戻 → |