1/1 「チョウジ君!」 「名前ちゃん…!」 甘味処から出た直後に声をかけられた。 名前ちゃんがにっこり僕に笑いかけながらこちらに歩み寄ってくる。 か、可愛い… その優しい笑みででれっとならないように注意しながら、僕も笑い返す。 「何食べてたの?」 「新作和菓子が出たって聞いたからそれを食べに来たんだ」 「どうだった?」 「すごく美味しかったよ」 「ほんと?じゃあ今度食べてみよう」 “チョウジ君が美味しいって言ったものは本当に美味しいから” そう柔らかく微笑みながら言われて僕の心臓はどくんと高鳴った。 ああ、二回も名前ちゃんの笑顔が見れて幸せ… 思わず心の中でガッツポーズをした。 僕は名前ちゃんのことが好きだ。 でも、これは叶わない恋。 だって名前ちゃんはシカマルのことが好きだから。 よく二人は一緒にいて、とても仲が良い。 名前ちゃんが僕と仲良くしてくれるのは、ただ単に僕とシカマルの仲が良いから。 僕はただのおまけに過ぎない。 でも、そんなおまけでも嬉しいんだ。 だってそれがなかったら僕は名前ちゃんと話す機会なんてずっとなかっただろうから。 名前ちゃんと笑いながら話すなんて夢のまた夢だっただろうから。 それでも―この気持ちを自覚してからは、シカマルと名前ちゃんが楽しそうに話してるのを見ると辛い。 ほら、今だって。 「チョウジー、名前ー」 「あ、シカマル!」 通りかかったシカマルに呼び止められる僕たち。 名前ちゃんがシカマルに笑顔を向けながらそっちに行く。 …僕には、見せたことのない笑顔をして。 「チョウジ?…どうした?」 僕はそんなにひどい顔をしていたのかな。 シカマルが声をかけてくる。 「ん?何が?」 慌てて笑顔を作って答えるけど、シカマルにはバレちゃうかな。 「…そんなら、いいけど」 「…もう行くね。シカマル、名前ちゃん、ばいばい」 僕はこれ以上仲良さげに話す二人を見ていられなかった。 「チョウジ君!」 「待てよチョウジ!」 二人の呼び止める声が聞こえるけど僕は気にせず走り出す。 痛い。 僕には見せてくれないあんな笑顔を、シカマルには簡単に見せるんだ。 痛い。胸がひどく苦しい。 シカマルと名前ちゃんが一緒にいるたびに、胸がえぐられるような感覚。 いっそのこと告白してしまえば楽になれるかな… そう考えて頭を振る。 名前ちゃんは優しいから、きっとすごく困る。 それに第一、僕は名前ちゃんに告白する勇気なんて持ってない。 …諦める勇気も持ってない。 だからどんなにシカマルと仲良くしてても、作り笑顔で見てるしかできない。 それが深く自分を傷付けるとしても…。 「…チョウジ君、行っちゃったね。 ごめんねシカマル。わざわざ来てくれたのに」 私はチョウジ君のどんどん小さくなっていく背中を見つめながら呟く。 チョウジ君、よくわからないけどすごく辛そうな顔してた。 「別に構わねえよ。 それよりあいつ、かなり面倒な方に考えてるかもよ」 「え?どういうこと?」 はぁ〜めんどくせえことになったな、とぼやきながらも教えてくれる。 「俺と名前が付き合ってるとか、そーゆーことを考えてるかもしれねえってこと」 「え!?」 「チョウジの目の前であの笑顔はなぁ…。 それにお前、チョウジとあんま話してねえだろ。余計へこんでると思うぜ」 「そ、そんなぁ。 チョウジ君とは意識しちゃって上手く話せないだけなのに… さっき笑ったのだって、シカマルを見た安心感で…」 「(あんな顔、俺だってドキッときたっつーの) チョウジは自分に自信を持てないからな。十中八九悪い方に考えてる。とにかく、あのままにしておくのはまずい」 「ど、どうすればいいかな?」 「予定通り、チョウジに告ってこい」 「えぇ!?やだ恥ずかしいよ〜! それに成功するかわかんないし!」 「だーいじょうぶだって。お前なら上手くいく」 「でも…」 「ほら、はやくしないと追いつけなくなるぞ。 それにいつかは言わなきゃいけないんだしよ。 お前が“いつまでもうじうじしてるのは嫌なの。だから今日言う”って言った時、俺素直に感動したんだぜ?すげーってな。 あの決心はなかなかできるもんじゃねえ。 だからお前ならできるよ。 ここにいてやるからはやく行ってこい」 シカマルがにやっと笑いながら、はやく行けと繰り返す。 …そうだよね。 いつかは言おうと決めてたこと。 先延ばしにしても何の意味もない。 そう鈍った決心を引き締める。 「うん…わかった、行ってくる!」 「頑張れよ」 「シカマルありがとう!」 「おう」 すでに遠くなりつつある名前の走る後ろ姿を見送りながら、シカマルはあくびをした。 「ふぁ〜…ったく、手間かけさせやがって」 「チョウジ君!!」 後ろから声をかけられる。 振り向けば、 「名前ちゃん…」 走ってきたのか、肩で息をしながら僕の前まで来る。 「はぁ、はぁっ…チョウジ君走るの速いね!疲れたぁ」 「どうして僕のとこに来たの? …シカマルに誤解されちゃう、よ」 きしきし悲鳴を上げてる胸に気づかない振りをして言ったのに。 「ぶっ!シカマルの言う通りだ!」 名前ちゃんに盛大に笑われて、僕は困惑する。 何かおかしなこと言ったかな? 涙が出るまで笑い続けた名前ちゃんは、何回か深呼吸をして僕を真っ直ぐに見つめてきた。 「あのね、チョウジ君」 「な、何?」 「好きだよ」 「え!?」 違う。だって名前ちゃんはシカマルのことが… そう言いたいのに名前ちゃんの目を見つめたまま何も言えない。 「…あのね。チョウジ君は誤解してると思うんだけど。 私はシカマルのこと好きじゃないよ。付き合ってもいないし。あ、友達としては好きだけどね」 「でも…僕よりも」 「シカマルはチョウジ君と仲良いから、色々相談に乗ってもらってたの。 チョウジ君には、意識しちゃって話しかけにくくて…ごめんね」 え? 何も考えられなくなった頭で名前ちゃんの言ったことを必死でまとめる。 つまり、今までのこと全部、僕の勘違いで… 僕が一人で思い込んでただけで、名前ちゃんは僕のことを好きってこと…? シカマルとよく話してたのは、僕のことで相談してたから…? そう考えたら顔が急に熱を持ち始めた。 ほ、ほんとに…? 「あの、チョウジ君…私のこと、嫌い?」 黙ったままの僕に不安そうに聞いてくる。 「そんなことないよ!ぼ、僕も、名前ちゃんのことが好きだよ」 「…ほ、ほんと?」 「うん、本当だよ! ずっと好きだったんだ!」 名前ちゃんの手を握って言ったら、今まで忘れてたように途端に真っ赤になった。 それにつられて僕の顔も更に熱くなった。 「シカマル!」 二人でシカマルの待っている場所へと向かう。 「おーやっと来たか。おせーっつーの」 「色々ありがとね」 名前ちゃんはちょっぴり照れくさそうに言った。 「シカマル、ありがとう」 僕はシカマルの目を見てにっこり笑った。 「べーっつに俺は何もやってねえよ。 チョウジ、お前は自分が思ってる以上にいいとこたくさんあんだからな。 自信持てよ」 「うん、ありがとう」 「ふぁ〜あ、ねみぃ。昼寝すっかな」 お前らの邪魔しちゃわりーし。 そう付け足して、しっかり繋いだ僕たちの手を見て微笑みながら帰っていった。 恋は遠回り (それでも最後はハッピーエンド) ← 戻 → |