だから、少し | ナノ


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カカシ先輩と別れ、自宅に帰る。
簡素なアパートの階段を昇り、自分の部屋に鍵を挿す。
風呂と食事するためだけの場所。
いつもは返り血だらけだが、今日の任務は多少汗をかいただけだ。
時間もいつもは深夜だが、今日は夕方。
風呂に入って夕飯を食べるか。
そう決め、取りかかろうとしたところで、玄関のチャイムが鳴った。
…誰だろう?
出てみると、カカシ先輩だった。


「や。今日はお疲れ」


先輩は片手を挙げた。
その仕草は先輩の挨拶の一環なのだろうか。
私も挨拶をする。


「こんばんは、お疲れ様です」

「もう夕飯食べた?」

「まだですが」

「じゃあ一緒にどう?」


疑問形で言葉も優しげだが、目が鋭い。

断ることはだめな気がした。


「…わかりました」

「じゃあ行こうか」


カカシ先輩の目が弧を描いた。



着いた場所は「一楽」というラーメン屋だった。


「ここね、美味しいんだよ。来たことある?」

「ないです」


席に座り、ラーメンが運ばれてくるのを待つ。
私たち以外に客はいない。


「へい!お待ち」


中年男性が湯気の立ったラーメンを置く。
受け取ってラーメンを食べる。
こういうものを食べるのはすごく久しぶりだ。


「美味しい?」

「…よくわかりません。最後に食べたのはずいぶん前なので」


中年男性が「うまいに決まってるだろ!」と口を挟む。


「そっか。暗部にいたら食べに来る時間なんかないよね。
ここね、俺の受け持ってる下忍が大好きなんだよ。三食ラーメンでもいけるくらいラーメン好きでさ。よく奢らされるの」

「そうなんですか」

「今はまだわからないかもしれないけど、おいしいって思えるようにまた一緒に来ようか。
一人で食べるより誰かと食べた方がおいしいし」


カカシさんは口布を顔に当てながら言った。いつの間にか食べ終えたらしい。


「あの…」

「何?」


私は、感じていた疑問を聞いてみることにした。


「ひとつお聞きしたいのですが…何故こんな任務を引き受けようと思われたんですか?
感情を取り戻すなんて、任務期間はいつまでかわからないし、ましてや戻る確証すらないのに」


ああそれはね、とカカシ先輩はそこで一旦言葉を切った。


「それを答える前に言わなくちゃいけないことがある」

「何ですか」

「実はこの任務、前から綱手様に言われてたんだ。
綱手様はその場の思いつきみたいに俺を呼んだけど、俺を担当させると前から決めていた」

「…そうだったんですか」


心臓が高鳴る。
これはきっと前にも経験した、驚きというものだろう。
驚きを実感はできないが、カカシ先輩の発言は予想外だった。


「名前の言った通り、期間もわからないし、感情を取り戻せる確証もないから綱手様には『断ってもいい』って言われたけど、考えたんだ。
名前が昔の俺と同じだったら、って」

「昔の、カカシ先輩と同じ?」

「そ。昔の俺のように荒んで、めちゃくちゃな毎日を送ってるんだとしたら、って考えたら、何とか元に戻ってほしいと思ったんだ」

「自分と同じになってほしくない、もしなっていたら元に戻したい。…そういうことですか?」

「そーだね」

「…失礼ですが、たったそれだけのために、面識のない私の感情を取り戻させようと?」

「そうだよ。たったそれだけでも、俺には大事な理由なんだ。
昔の俺は本当に馬鹿だったからね。同じ道を辿ってほしくなかった」

「なるほど。ちなみに理由を馬鹿にしているわけではありません」

「わかってるよ。
名前は昔の俺より遥かにマシだよ。
でもマシなだけで同じなのは一緒。それに人間として感情はなくしちゃいけない。
ただ、取り戻すにはきっと名前だけじゃ難しい。誰かが手助けをしないと戻らない。だから引き受けた。
名前のためのように見えて実際は自分のためなのが、私情丸出しで恥ずかしいけど」


カカシ先輩は鼻を掻きながら、はは、と笑う。


話を聞いた私は、さっき以上に胸がドクンと音を立てているのがわかった。
強く驚いているらしい。
カカシ先輩がこの任務を引き受けた裏に事情があったこと。
火影様が事前に人選をしていたこと。
これは想像すらしていなかった。
火影様はカカシ先輩を適当に選んだものだと思っていたし、カカシ先輩も任務だからやっているだけだろうと思った。


私は正直、いつまでも感情が戻らなかったらこの任務も終わるだろうと思っていた。
カカシ先輩という実力のある忍を、こんな任務に長い間配属できるわけがないと。
そう予想していたから、投げやりにやっていた部分があった。感情なんて戻らなくていいと思っていた。
でも、カカシ先輩は私に昔の自分と同じになってほしくないと言った。
だからきっと、私の感情が戻るまでカカシ先輩はこの任務にずっとつくだろう。
ならば私は早く感情を取り戻さないといけない。
里のために。


「質問に答えていただき有難う御座います。
…私も早く感情を取り戻せるよう、努力します」

「ん、そだね。頑張ろう。
明日上忍待機所に行ってみようか。名前も上忍になったんだし、顔出しと挨拶しなきゃね」

「はい」


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