1/2 暗部に入って十年。 私は感情と言うものを失くした。 普通の忍ならまだしも、そんなものは暗部の忍にとっては邪魔なもの。 任務中も必要最低限に会話を絞り、危機になれば仲間の特性を考えた上で連携を図る。 死んだって構わないが、仲間がいなければ任務成功率はぐっと下がる。 全ては任務のため。 連携を図っても、そこに感情などはない。 それに私は人と交わることも嫌いだから、友人と呼べる存在もいない。 口寄せの契約をしている忍猫と会話する程度だ。 私は、自分が死ぬまでずっとこういう風に生きていくんだと思っていた。 里のために命を懸け、里のために死ぬ。 感情のない“影”として生きていくと思っていた。 なのに、突然。 「名前、暗部を辞めて上忍に戻れ」 開口一番、火影様は両手を顔の前に組んで、いつもと何一つ変わらぬ口調で言い放った。 「……いきなり何をおっしゃるんですか」 心臓がどくりと鳴ったのは―……びっくり、したのだろうか。 久しぶり過ぎて、自分でもその正体がよくわからない。 でも、私の中にまだこんなものが残ってるなんて…。 そう考えていると、火影様が続けた。 「お前は暗部歴十年だ。 今、暗部の者達には少しずつだがただの忍に戻ってもらっている。 何故こんなことをするかわかるか?」 「いいえ」 「そうか…。 私は、暗部をただの殺人集団にはしたくない。 だが、暗部は普通の忍よりも感情を殺さなきゃならないだろう? そのせいで感情を失くした奴もいる。 名前、お前の様にな。 だから一旦暗部を辞めて、普通の忍になって感情を取り戻し易くしているんだ。 暗部にいるよりはマシだろうからな。 まあ、これは強制ではないが。どうする?」 火影様のおっしゃることはわかるような気がする。 でも、感情を取り戻したとしても、またそれを殺さなきゃならないのに。 火影様は私に目を合わせて、無言で返事を催促している。 私は口を開いた。 「私は、今のままでいいです。 感情など取り戻したところで、所詮は無用のもの」 ← 戻 → |