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双子と判子

「おはよう!提出の書類にハンコ押した?」
「……お、押してへん。取ってくるわ!」


朝、玄関前で会って試しに聞いてみたら意外にもサムくんが忘れていたみたいで、ハッとした表情を浮かべてバタバタと家の中に戻るその背中をツムくんと見送る事となった。
「アホやな」って呟いたツムくんを見上げたら笑顔でおでこをすりすりと寄せてきた。
……自分はちゃんとやったアピールしてる。
その時にサムくんにも伝えてくれたらよかったのに。
ツムくんに抱き締められていると玄関が騒がしくなった。
大きな音を立てて開いたドアからハンコ片手にサムくんが飛び出してきた。
顔を歪めたサムくんに引っ張られながらバスに乗り込んで、学校へ向かう。
朝練を終えて、教室に着席してすぐサムくんは提出物の書類を取り出した。


「なぁなぁ、押すのココだけ?」
「うん。そうだよ」
「ん……これで大丈夫やな。ホンマ助かったわ。(名前)ありがとな」


頷けば書類にすぐさま押された“宮”のハンコ。これで無事提出できそうで何より。
サムくんを見れば、押した朱肉のあとをじーっと見ていた。
……乾くのを待っているのか、な?
しばらく様子を見ていたら、今度は手に持ったままのハンコを見つめていた。
思わず一緒に見ていた角名くんと目が合ったけれど、サムくんの行動がよく分からなくて無言でお互いに首を振るだけに終わった。
サムくんに視線を戻したら、しっかりと目が合った。
ハンコの次は、私……?
机に置いていた手をやんわりと握られ、顔の高さまで持ち上げられた。
そしておもむろに、でも迷いなく真っ直ぐ私の手首の内側に“宮”のハンコを押し付けた。


「って、え!ちょっ、サムくん!?」
「ハンコって、コレは自分のって証明するモンやろ?やったら(名前)は俺のやから押さなアカン思て」


私の手首の内側にくっきりと存在を主張する“宮”を見て、サムくんは目をキラキラとさせた。
……なぜかその隣にもう1つ押された。
腕を引いてもサムくんの力が強くて抜け出せない。
私が必死にその手と格闘している間に朱肉をつけ直しているサムくんを見てしまった。
待って待って!なんでまた押そうとしてるの!
向かってくる手を掴んでも私の力じゃどうしようも出来ないからこれ以上増やされないように手首をガードした。
……頬に押された。


「嘘でしょ……」
「めっちゃキレイについたで〜」
「え、コレ落ちるの?ねぇ、角名くんスマホ触ってないで助けてほしい。というか止めてほしい」
「治のこういう突拍子ないとこ、やっぱり侑と双子だよね」


サムくんはキレイに押せた事に満足したのかスマホを取り出して写真を撮り始めたみたい。
鏡を見たら私の頬にしっかりとキレイに“宮”がついている。
洗顔料なんて持ち歩いてないから家に帰るまで頬はこのままだ……。
少しでも薄くなるかと拭き取りシートを取り出したらサムくんに奪われた。
返してほしくて手を差し出して見つめたら、首を横に振られた。


「(名前)は俺のやから消したらアカンねん」
「このままは恥ずかしいよ!手首は隠せるけど、ほっぺたは隠せないから消したい」
「嫌や。ハンコ消したら油性ペンで名前も書くで」


……脅されたんだけど。
せめてもの抵抗で髪の毛でどうにか隠そうとしたら、前に流したタイミングでサムくんの手が髪の毛を耳にすぐかけていくから泣く泣く諦めた。
喋る度に顔を見て角名くんは吹き出すように笑ってばかりだし……。
ツムくんが教室に来た時、あわよくば助けてもらおうと名前を呼んだら、私の顔を見て驚いていた。
どうにかしてくれるかもともう一度名前を呼ぼうとしたら「……え、宮……カンペキ俺のやん」って呟きが聞こえた。


「ほら、双子なんだから意味ないと思うよって言ったじゃん」
「うん……そうだね」
「(名前)どうしたん!?ツムくんのやで〜ってコトか!」


ツムくんは嬉しそうに私の頬に押されている“宮”をつついた。
ツムくんを押し退けたサムくんはぎゅうぎゅうと抱き締めてきた。
それからハンコが押されてない頬に自分の頬をぴとっとくっつけて、うりうりと顔を動かしてくる。
聞こえてくるツムくんの不機嫌な声を気にしているのは私だけで、サムくんはずっとくっついて「俺が押したんやから俺の(名前)やで〜」って言いながら楽しそうにしている。
テンションが上がっているからサムくんの頬擦りも抱き締めてくる強さも遠慮がなさすぎて痛い。


「わかった!サムくんのでいいかっ……つ、ツムくんその手に持ってるもの置こう?」
「(名前)は俺のやん……コレ押されてそない事言うんやったら押すに決まってるやろ。首に押したろ」
「まって……!ごめんなさいごめんなさいツムくん待って!ボタン外しちゃダメだってば!」
「絶っっ対押すからな!サム邪魔すんなや!(名前)は俺のやからな!」


ヤケになったツムくんにボタンを外されて首から鎖骨、胸元が“宮”でいっぱいなった。
対抗したサムくんがまた押そうとしてきたけれど、さすがにこれ以上増えるのは困る。
……だけれど部活が始まる時には双子のせいでさらに“宮”が増やされて、私が皆から宮さんって呼ばれてからかわれた。
落とすのが大変なんだからって文句の1つでも言おうと思っていたのに私が宮さんって呼ばれる度、双子があまりにも嬉しそうに笑うから何も言えなかった……。






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