その後、わたしたちは中学に上がる。特に誰かが言い始めたという訳ではないが、互いを苗字で呼ぶようになった。そろそろ、色々な意味で難しい年頃になっているのは、全員なんとなく察していたから。
 神童と霧野はサッカーに熱を入れていたが、わたしはマネージャーとか、そもそもサッカーそのものに関わろうとは思えなくて、二人とは少し距離を置くようになった。家が近いから、帰る時間が同じになれば一緒に帰ったりはしたが。
 そしてしばらくして、どうやらサッカー部が、何やら難しい問題を抱えているらしいという話を聞く。二人に聞いた訳ではない。噂で。
 そこでようやく、あの時わたしのことを知った二人は、もしかしたらこんな気持ちだったのかな、なんて思うようになったが、そろそろ良い歳だし、わたしも幼馴染離れしなければいけない。ましてやわたしは二人の一介の幼なじみで、恋人でもなんでもないのだから。部外者であるわたしがサッカー部の問題に首をつっこんで良いはずが無い。自分から関わるのはやめよう。そう思っていた、のだけれど。

「サッカー部を辞めた?」

 神童が? 今し方霧野から聞いた言葉が信じられなくて、つい問うてしまう。
 放課後、たまたま目にしたサッカー部の練習。そこに神童の姿がみえなかったから、その場に居た霧野に彼の所在を訊ねた。すると、予想だにしなかった言葉が返ってきた。

「そんな、なんで」

 あんなに、好きだったのに。いや、過去形なはずがない。今だって好きなはずだ。

「どうして…」

 霧野が目を反らす。言いたいことは色々あるはずなのに、上手く言葉に出来なかった。でも霧野を責め立てるのは間違っている。わかってる。霧野は、わたしの質問に答えただけだ。わかってる。それでも、問わずにはいられなかった。

「どうして…っ」

 何故、彼がサッカーを諦めなければならない。あんなに、わたしの目から見ても、サッカーを愛しているとわかるのに。

「神童に、会ってやってくれないか」

 重い空気の中、霧野が真っ直ぐわたしを見て言った。え、ぽつりと零れた声を拾って、霧野は苦く笑みを浮かべる。

「きっと、一ノ瀬になら言えることもあると思うから」

 何も言えなくてごめん。ただ謝った霧野の言葉に、今彼らが戦っているものの大きさを感じた。
 きっと、わたしの時とは比べものにならない。大きな何かが、彼らの前に立ちふさがっている。

「…神童は、家に帰ったんだよね?」

 霧野が肯定を確認して、踵を返す。ただ神童と話をしたい。その一心だった。




★20120103 ayako,i



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