お昼時のファーストフード。彩子と対峙して座る蘭丸の機嫌は、悪くなる一方だった。
「どうしたの?」
「別に」
ぷい、とそっぽを向いて言われてもまるで説得力がない。彩子は首を捻った。
「蘭丸がおかしいー」
語りかける相手は蘭丸本人ではない。それが更に彼を苛立たせた。
「お前なあ」
彩子が持っていたマスコット人形を奪い取る。あっ、と小さく声を漏らし、彼女は抗議した。
「ちょっとなにするの!」
「お前が悪い」
ついさっき、ゲームセンターで取ったプライズだ。ピンク色の、癒し系がウリなキャラクターなはずなのに、今だけはその表情が蘭丸を苛立たせた。
わざと人形を持つ力を強める。彩子が悲痛な声をあげて、隙をついて蘭丸の手からそれを奪い返した。
「なに酷いことしてるの!」
ぶちぶち文句を言いながらその形状を整える彩子。ある程度もとに戻すと、満足したのか人形に口付けるように唇を寄せた。
「もう、蘭丸本当に酷いんだか」
ら、と言葉は続くはずだった。不意にゼロになった距離に、彩子は顔を真っ赤にする。
「ムカつく」
他のものばっかり構って。
吐息を感じる距離でそれだけ呟いて、蘭丸は乗り出していた身を元のように正した。
何事もなかったかのようにドリンクに口をつける蘭丸とは対照的に、彩子は顔色はそのままに、ただ口を開閉するしか出来ない。
「ばっ、ばか…!」
ようやくそれだけ口にして、彩子は顔を隠すようにマスコットを近づけた。しれっとした表情の蘭丸が恨めしい。
「人の気も知らないで…」
「は?」
「だって、」
本人になんて、恥ずかしくて出来ない。
元々赤かった顔を更に赤くして呟く彩子だったが、爆弾を落とされたのは蘭丸も同じだった。
「なに、言…」
蘭丸も同じような顔色になって、目元を片手で覆うように隠す。ちゃんと言えってそういうこと。言えないからこうなったんでしょ。
互いに小さく溜息をつき、相手を盗み見た。
【 with the result 】
20120221 ayako,i