「いい加減オレのこと巻き込むの止めてもらえません?」

 げんなりした表情を浮かべる狩屋に私から言える言葉は一つだ。

「この薄情者!」
「薄情者でいいからオレが被害者だって事に気付いてほしい」

 お昼休みの屋上で、狩屋はお弁当をつつくのを止めて溜息をついた。そもそもなんで毎回霧野センパイのことオレに愚痴るんですか、ややげんなりした表情にきっぱりと告げる。

「狩屋が蘭丸と仲が良いから」
「嫌がらせじゃなくて本気で思ってるなら彩子センパイの目は腐ってますよ」

 どの口が言うか。私が口を開くより前に、そういう理由ならオレじゃなくてキャプテンに話せば良いじゃないですか、と不満げに言ってくる。

「狩屋、よく考えて」
「何ですか」
「神童に言ったら120パーセント蘭丸に筒抜けだよ」

 良いことも悪いこともね! あー…、意味の無い言葉の裏に私への同情が滲んだ。察しの良い狩屋は、既にそれが経験済みであることに気付いたようだ。確かに、でしょう、お互いにお弁当を一口。

「にしたって、もっと他に言う相手いるんじゃないんですか」

 クラスの女子とかの方がよっぽど話盛り上がりますよ。向けられる言葉は一般的に考えれば確かに正論なのだけど。残念ながら、私は交友関係が広い方ではない。にも関わらず、愚痴の対象が女子に人気のあるあの霧野蘭丸ってそれもう死ねって言ってるようなものでしょう。
 そもそも根本的な問題として、クラスの女子ときゃっきゃするより、はっきり言って浜野あたりと騒いでいた方が楽だ。

「じゃあ浜野センパイで良いじゃないですか」
「バカ、浜野に言ったらそれはもうみんなにバラしてくれって言ってるようなもんだよ」

 狩屋の口元がひきつった。しかし反論がないところをみるに、意義はないようだ。

「じゃあ天馬くんとか信介くんとか…」

 もっと素直な聞き上手が居るじゃないですか、なんでオレ…。と消え入る言葉に一応申し訳ないとは思うが、実際狩屋くらいしか上手い具合に聞いてくれる相手がいないのは事実だ。
 剣城を覗く一年生は私の言うことを真に受けるだろうし、剣城だって根が真面目だからいらない心配しそうだし。速水は押しに弱そうだし、倉間は間違いなくとりつく島もない、かわされる。三年生は先輩だから除外。

「てわけで、狩屋くらいしか居ない」
「消去法…」

 いや、毎回付き合わせて悪いとは思ってるよ、一応。あとは狩屋が一番まともに相手してくれるから、適度に流すし。あんまり全部受け入れられすぎるのも居心地悪い。

「彩子センパイは真面目かもしれないですけど、オレから聞いたらただの痴話喧嘩ですよほんと。そういうのは当人同士でやってほしいんですけど」
「う…否定できない」

 そんなに迷惑だとは思わなかった…。なんだかんだ狩屋は面倒見が良いというか、気を許してる相手に関しては、頼られれば突き放しはしないと思っていたから。

「ごめん…」
「そこまでヘコまれるとオレがなんかしたみたいでちょっと罪悪感が…」
「じゃあもう黙って聞いててよぉ!」
「うわぁめんどくさ」

 バツが悪そうな顔をされてさらに申し訳ないので、テンション上げてわざとらしく言う。そっぽ向いて言葉の通りめんどくさいという表情を浮かべる狩屋だが、きっと全部わかってる…はず。
 そこから先の狩屋の反応を待つが、何も返ってこない。狩屋の目線を追ってみるが、特段かわったものは目に入らなかった。

「狩屋?」

 どうしたの? 返ってきた言葉は、あー、とか、えー、とかいう曖昧なものだった。首を傾ぐ。と、不意に狩屋がこちらを見た。

「なるほど、な」
「え、なに…?」

 ニタリと悪人笑いを浮かべる狩屋に思わず後ずさる。嫌な予感しかしない。

「何逃げてんですか」
「いやいや狩屋こそなんでそんな近づいてくるの」
「さっきの話、ようするに霧野センパイが女子全員に優しいから妬いてるんですよね」
「要約するとそんなもんだけどだから近い!」

 じりじり後退をしていたものの、生憎端まで来てしまった。背中には安全対策用のフェンス。あれ、どうしてこんなことになったんだ…? 口元が若干ひきつったのと、狩屋の手が私の目の高さ、フェンスにかかったのは殆ど同時だった。

「かり、や」
「オレにしとけばそんな思いさせませんよ」

 ぐっと距離が近くなる。なにがなんだかわからない。どうしてこうなった、私はただ蘭丸の話を狩屋に――

「狩屋ッ!」

 叫んだのは、わたしでは、ない。声が耳に入ると同時に鈍い音が聞こえた。


 

 20120214 ayako,i




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