「降ってる降ってる!」

 昼頃からちらつきだした雪は、未だ降り続いていた。天候の影響もありミーティングだけで終わったいつもより早い部活終わり、前を駆ける天馬と信介に続いて彩子も外に出た。

「積もるかな?」
「朝のニュースでは積もるって言ってたよ」

 やった! 手を合わせて喜ぶ二人を見て彩子は少し笑う。とは言え、そわそわしているのは自分も同じだった。
 この街に雪なんて滅多に降らないし、降っても積もる程ではない。勿論、積もると言っても真正の雪国とは比べものにならないだろうが、歩めば音がするくらいでも十分だった。
 僅かに積もっている場所を見つけては三人で踏み鳴らす。きゃっきゃとはしゃぐ姿を遠目に見た神童は声を張る。

「転ぶなよ!」
「はーい!」

 返事だけは良い後輩たちに思わず苦笑を浮かべる。取り敢えず怪我だけしなければ良いか、三人の後に続く輝や浜野たちを見送りながら空を仰いだ。

「雪だるまとか作れるかな?」

 信介の言葉に、彩子はどうだろうと返す。積もるとは言っていたが、そこまででは無いようにも思う。ただでさえこのあたりに降る雪は水気も多い。

「そっかぁ」
「でも積もったら試してみようよ」

 意外となんとかなるかもよ? いたずらっぽく笑った彩子に、信介は頷いた。

「危ない!」

 不意に浜野の声が響く。信介と彩子が声がする方向を向くと、何かが彩子の方に迫ってきていた。

「う、わ!」

 驚き、咄嗟に避けようとした彩子の体が傾ぐ。足元が雪だということを失念していたのだ。体を固くする彩子だったが、予想した衝撃は訪れなかった。
 かわりに、頭上から鈍い音が聞こえ、はらはらと細かいものが幾らか降ってくる。ついと目線を上げると、剣城がすぐ近くにいた。

「立てるか」
「え、あ。うん」

 そこでようやく、彩子は剣城に支えられていたのだと気付く。背中に回していた左腕はそのままに、空いたている片手で肩を支え彩子を立たせる剣城。

「ごめん剣城、一ノ瀬!」
「大丈夫です」

 いまいち状況が飲み込めずぽかんとしていた彩子だったが、剣城が返事を急かすように小突いてきたため、同じ言葉を返した。

「ノーコン」
「ちょっとすっぽ抜けただけだって!」

 馬鹿にしたような風に言う倉間に、浜野は口を尖らせる。取り敢えず怪我してないみたいでよかった、ほんとごめん! それだけ言い残して自分が居た輪の中に戻る浜野。戻るや否や、倉間や速見から雪玉の集中攻撃を受けている。
 僅かに積もった雪をかき集めて、玉を作って投げ合っていたものがたまたま飛んできたのか。一人ごちてから彩子は斜め後ろに立つ剣城を見る。右腕にはまだ雪の跡が残っていた。

「京介の方がよっぽど怪我するところだったよ」

 自分を支えたことで雪玉をかわす事が出来ず、腕でガードしたことを察した彩子。残っている雪を払いながら、剣城を見る。

「オレは、別に」
「過信は怪我の元、だよ」

 わかってるでしょ、釘を刺すように言われてはぐうの音も出ない。

「でも…、ありがとう」

 ぽつり、と彩子が落とした言葉に、剣城は目を見開いた。

「お前に怪我が無いならそれで、いい」

 少しばかり居心地悪そうに出された言葉に驚く彩子。それから少しくすぐったそうに笑って、剣城の手を握る。

「おい、」
「また転んじゃうかもしれないから」

 ね? 良いでしょ。そもそも断るつもりがないという所までわかっている彩子の方が上手だった。

「…ゆっくり歩けよ、彩子」

 危ないからな。はーい、返事だけ元気良く返す姿に小さく苦笑を浮かべながら、剣城は彩子の隣に立った。


【交わる温度はそのままに】





★雪降ってる! ってんで書きました。シチュエーション重視した結果これは剣城が良いって言ったら思ったほどキャラ掴めてなかった残念な展開。

 20120126 ayako,i


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