白恋中のホーリーロードが終わった。負けたこと自体は悔しいようだが、吹雪コーチと和解出来たこともあって、雪村はどこかすっきりした表情だった――はず、なのだが。

「なんでお前はそんなどや顔してる訳?」

 打って変わって、ややげんなりした表情を浮かべている原因は、多分、いや絶対私にある。
 駅前のロータリー。留守番だったマネージャーの私は、サッカー部のみんなが帰ってくると聞いて、学校に戻るのが待ちきれずここまでやってきた。だというのに、その言い方はあんまりじゃないか。
 という私の気持ちなど一切察しなかった雪村が、追い討ちをかけようとした。

「きもちわる」
「あれ、一ノ瀬だ。わざわざ迎えに来てくれたの?」

 何やら酷いことを言おうとしたような雪村を、わざとなのかそうじゃないのかわからないけど、遮って吹雪コーチが顔を出した。

「わぁ、お久しぶりですー! …でもないか?」
「どうだろう、気持ち的には随分長い間白恋から離れていた気がするけど」

 吹雪コーチが白恋中に戻ってくることは既に知っていたけど、喜びを隠せなくてついはしゃいでしまう。知っていてもこんなに嬉しいのに、知らなかったらどうなっていたんだろう。先にメールで教えてくれた王鹿に感謝しなくちゃ。

「本当に、吹雪コーチが戻ってきてくれて良かった。私、熊崎監督ってちょっと嫌いだったんです」

 率直すぎる言葉だったせいか、コーチは目を丸くしたあと、どうしてだいと苦笑した。そりゃあ、それなりの年頃の女子としては、文字通り熊みたいなおじさんよりも、若くてかっこいい男の人の方が良いっていうのもあるけど……それよりも。「だってあの人、みんなを物みたいに扱うようなところがある気がして…」

 私は、フィフスセクターとか、そういうことはよくわからないし、そう感じたからといって監督に意見できるような勇気もないけれど。でも、少なくとも、熊崎監督よりも、吹雪コーチとサッカーしている時の方がみんな楽しそうだった。
 気づくと、コーチだけじゃなくて、サッカー部のみんなが目を丸くしていた。何かおかしな事でも言っただろうか。伺うように首を傾ぐのと、ほとんど同時にみんなが少し笑った。
 え、なにどういうこと? 私一人置いてけぼりくらってぽかんとしていたら、不意に吹雪コーチが私の頭の上に手を置いた。

「僕が居ない間も、一ノ瀬はちゃんと部のことを見ててくれたんだね」

 ありがとう、思いも寄らない感謝の言葉に、動揺したのはむしろ私の方だ。ええそんな、と口ごもってしまう。

「社交辞令」

 はっ、と鼻を鳴らして呟いた雪村にイラッとして背中をひっぱたいてやった。手加減しなかったこと、雪村自身が構えていなかったこともあって、予想以上によろめいたようだ。いいざま、口に出すと余計に面倒なことになるのは目に見えてるので、心の中に留めておく。

「一ノ瀬!」

 言いかけた雪村を、コーチがやんわり制した。

「今のは雪村が悪いよ」

 一応は自覚があるのか、そのまま口をつぐむ。でもそれですんなり許せるほど私も大人ではなかったから、わざとツンとした態度を取った。私たち二人をそれぞれ見てから、吹雪コーチが小さく噴き出す。

「君たちは本当に似た者同士だなぁ」

 どこが?! ユニゾンで問うた私と雪村は、思わず顔を見合わせる。そういうところがだよ、面白そうな表情を浮かべるコーチだけど、私たちは全く面白くない。

「雪村は自分が構ってもらえないから寂しいんだよ」
「吹雪先輩!」

 はぁ? 敬意も何もない言葉が零れたはずだけど、多分雪村の声に掻き消された。何言ってるんですか、雪村が焦った様子で抗議するが、コーチは何事もないように言った。

「こっちに戻ってくる時も一ノ瀬の話ばっかりしてたからね」

 声のトーンを上げて何が何でも止めようという姿勢の雪村を物ともせず、恐らく雪村がしたであろう最近の私の話ばかりを上げる吹雪コーチ。普段はあまり見ない雪村の慌てた様子が、それが事実であることを物語っていた。

「それがこっちに着いてみたら、自分には全く構わないで僕の方ばかりに来るものだから。面白くなかったんだろ?」

 まぁ最初に一ノ瀬につっかかったのは自分だけどねー。年齢よりも少し幼く見える、いたずらっ子のような表情で雪村の頬をつつく吹雪コーチ。雪村は雪村で止めることは諦めたらしく、やめてくださいとだけ言ってそっぽを向いてしまった。

「ね?」

 ひねくれたやつだよねぇ、同意を求めるように言われ、可笑しくなってしまった。
 そろそろ戻るよ、不意に吹雪コーチが少し離れたコンビニで買い食いしていたイレブンのみんなを呼ぶ。いつの間に。彼らはどうやら、私と雪村のこの手のやり取りは、最早ただの痴話喧嘩としか見ていないようだ。みんながやって来て、全員揃っていることを確認したコーチが先頭を歩きだした。私は、不貞腐れた表情で一番後ろに付く雪村の横に並び、なんとなく歩調を合わせる。

「ねえ雪村?」

 どんな顔をしてるのかもっとちゃんと見てやろうとしたら、見るな、と肩を押し返された。どうやらさっきの吹雪コーチの言葉は思った以上に的を射ていたらしい。普段ならそんな態度取られたらちょっとくらいイラッとするけど、そう感じない程にその事実が予想以上に嬉しかった。
 だから、いつも雪村がこういう態度を取っているときは必要以上に近づかないけれど、今日だけはなんだかいつもより気分が良くて、そのまま隣を歩いた。




【拗ねたように顔を逸らすあなたの仕草】





Amore!様へ提出。
 冒頭の雪村の台詞は本当は違ったんですが、伏線回収するの忘れたまま書ききって直せなくなったので台詞変えました。でもたいして重要な台詞でも無かった←
 念願の雪村くんが書けて非常に楽しかったですwww でも雪村より吹雪のが出番多い気がするのは気のせい、うん気のせい。
 参加させていただきありがとうございました!

 20111121 ayako,i

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