時間よ止まれの続き
3限の授業が、人数の割りに教室が狭いというのは本当だった。学科の授業ではなく、全学部共通の一般教育科目に分類される授業だし。
でも別に席取りに急ぐほどではない。場所さえ選ばなければ三人掛けの机は二人で使えるし、教室も人数にそれなりに見合った大きさだ。
「今日は早いな、吹雪」
「鬼道くん」
僕の座っている机の片端に荷物を置く鬼道くん。僕が来るのはいつも大抵始業時間ギリギリだから、彼より早くこの場にいることが珍しかったらしい。
「恋人同士でいるところに自分もいるのって、居心地悪くない?」
それだけで状況が大体読めたらしい鬼道くんは、苦笑を浮かべる。
「そういえばヒロトのやつ、打ち合わせが終わったらさっさと出ていったな」
「そっか、二人は同じゼミなんだっけ」
「ああ」
目に浮かぶなあ、と零すと、しかもソツなくだからな、と鬼道くんが付け足す。それもわかる。
「まあそんなわけでヒロトくんが来たから、お邪魔な僕は退散したって訳」
「お前も大変だな」
そんなことないよ、と口では言ってはみたものの、本心はそんなこと無かった。
ヒロトくんならちゃんと、彩子ちゃんを甘えさせてくれるみたいだから。
あの場で続けようとした言葉が頭を過った。強がりで、本当は寂しがりやで、でもそれを表に出さないように振る舞ってて。全部自分で解決しようとする。それが高校の時の印象だった。
自分で言うのはなんだけど、他人の心情や動きは普通よりよく気づくタチだ。だから最初は、表向きはなんでもソツなくこなす彼女の本質に興味がわいて、接触するようになったのだ。
でも彼女は、僕にその本質を見せてくることは無かった。全部自分でなんとかしようとしていた。それが歯痒くて、悔しくて、だけどストレートに言葉をぶつけることが出来ない僕は、結局今の距離感に落ち着いてしまったのだ。
全部ヒロトくんのおかげだろうという言葉も本心だ。多分、彼だから、彩子ちゃんも大丈夫なんだと思う。
ヒロトくんの優しさとか、言葉とか。上手く言えないけど、いろんな要素が彩子ちゃんの距離感に合っていて、上手いこと甘えさせてるんだと思う。彼女が甘えてるんじゃなくて、ヒロトくんが甘えさせてる。彩子ちゃんがこうして欲しいと思ったときに、彼女がそれを言動に出さなくても、実行に移せてしまうのだ。ほんとうに、かなわない。
僕はそこには辿り着けなかった。ゴールはわかっていたけど、今まで形成してきた僕が邪魔をしていた。だから、今みたいな形に落ち着いてしまった。別に後悔はしていないし、過去を悔やむつもりもない。今は今で結構楽しいからね。だからきっと、今も胸のそこに眠る気持ちは、死ぬまでこのまま沈めておく。
まあでも、多少悔しいことは否定しないから、まだ暫くは楽しませてもらおうかな。
【あの日の言葉は胸に】
☆補完話という体でわたしが書きたかっただけ。
20111117 ayako,i