「あれ、彩子ちゃん?」

 おかずをつまみつつ目だけを声のする方向に向けると、吹雪が目の前の席に座ろうとしていたところだった。

「ここ良いよね」

 断定系か。誰かいたらどうするつもりなんだろう、と咀嚼しながら考えると、一人なんでしょ、と言われる。バレてる。

「誰か一緒なら食べ始めるの待ってるだろうし」
「…意外と人のこと良く見てるよね」
「失礼だな」

 僕は最初から気の効く人間だよ?
 悪気無く言い放ったと見える言葉は、きっと心を開かれた証拠だと信じたい。私は。

「珍しいね」
「何が?」
「一人なの。最近ずっとヒロトくんと一緒だったでしょ?」

 ……バレてる。答えずに視線だけ向けると、僕って人のこと良く見てるからさ、と笑顔で返された。嫌味なのか。

「でも別に、毎日基山と一緒にいる訳じゃないし」
「今日はヒロトくん、ゼミの集まりがあるとか言ってたからねぇ」
「…お互い予定が無い日だけだよ」

 ふぅん、女の子なら見るだけでくらくらしちゃいそうな表情を浮かべて一息。まあ私にいわせれば、面白いおもちゃ見つけたって顔なんだけど。

「私が知ってる吹雪は、そんなあくどい顔するヤツじゃなかった」
「失礼だな、それだけ君に本性を見せて良いって思ってる証拠だよ」

 嬉しくない。溜息をついた。吹雪は心底心外だって顔をしたけど、私は騙されない。

「まあ、僕は良い傾向だと思ってるよ」
「え?」
「だって彩子ちゃん、一人でいたがる嫌いがあったから」
「…そんなこと」
「無いって、言い切れないでしょ。自分のことわかんないほど頭悪くないもんねぇ」

 一回くらい貼り倒しても誰にも咎められない気がしてきた。口元がひきつる。いや、言い方が。なんかもっとあるでしょうに。知ってたけどこういうヤツだって!

「そのくせ、さびしがり屋なんだよね」
「…え」
「誰かと一緒に居たいくせに、いたらいたで上手いこと振る舞えないから一人になって。でもやっぱり誰かと一緒に居たいって」

 そんな風だった。正面から見た吹雪は、珍しく、柔らかく笑ってた。不覚にも胸が鳴って、誤魔化すようにおかずを口に放り込む。なにか突っ込まれるかと思ったけど、気付かなかったのか気付かなかったふりをしたのか、そのまま話を続ける。

「でもヒロトくんと一緒にいはじめてからは、なんとなく解消されたかなって。ていうか、ヒロトくんならちゃんと――」

 不意に、吹雪が視線を私の向こう側にやる。気になって振り向こうとしたところで、思い出したように声を上げたものだから、吹雪に視線を戻す。

「まあきっと、全部ヒロトくんのおかげだろうけどね」
「はぁ?」

 直前の話と脈絡が無い。顔をしかめると、吹雪が手を振る。ヒロトくんこっちー、と。
 ……ヒロト、くん?
 勢いよく後ろを振り向く。危うく立ち上がりそうになった。

「ひろっ、いぁ、あー…きや、ま……」

 しどろもどろの私に首を傾げつつも、なんだい? と問うてきたヒロトに、何も返せない。
 直前まで話題に上がっていたことを言えば、必然的にその内容にも触れることになるだろう。取り敢えずそれはいただけない気がする特に吹雪の前では!

「な、なんでも」
「そう?」

 隣良い? と許可は取りながらも既に私の席の隣に腰を下ろしかけた状態。まあ止める理由もないし、頷いて肯定する。

「お昼もう食べたんだ?」
「うん、集まりの時に済ませちゃって」
「わざわざこっち来たの?」
「まあね」

 吹雪とヒロトの会話を聞きながら、私は取り敢えず残った食事を片付けようと箸を動かす。吹雪は私より後に食事を始めたはずなのに、もう食べ終わっていた。男子は食べるのが早いとつくづく感じる。

「じゃあ僕そろそろ」
「何かあるの?」
「席取り。人数多いのに教室小さいから埋まるの早いんだ。参っちゃうよ」

 3限の始業時間より15分も早く席を立った吹雪に、気を使われたと気付いたのは後からだった。

「じゃあね」
「うん」
「あ、そうそう。彩子ちゃん」

 不意に思い出したように名前を呼ばれる。どうしたんだろう、と首を傾げて続く言葉を待つ。

「さっきの言葉の意味、聞きたい?」

 さっきの言葉ってどれだ。明確にならなかったの2、3個ある気がするんだけど。
 思わず顔をしかめると、やっぱり止めようかななんて言い出した。

「持ち上げて落とすのはやめようよ」
「そんなことないよ、別にそんなに気にならないのかなって思って」

 じゃあね、軽く手を振って学食を後にする吹雪。二人でそれを見送って、姿が見えなくなったところでヒロトが問うてきた。

「なんの話してたの?」

 ここで来たか。ヒロトに言えば吹雪が何を言いたかったのかはわかるかもしれないけれど、なんか私にとって面白くない展開になりそうだったからやめよう、そうしよう。

「いや、大したことじゃないんだけど。ヒロトこそどうしてわざわざ学食来たの? お昼済ませたんでよ?」

 話をはぐらかすついでに気になったことを聞いてみる。 あー、と意味の無い言葉をぼやいてからヒロトが言った言葉に、私は目を丸くした。

「彩子がここにいるかなって思ったから」

 そう? 特に深い意味も感じずに投げ掛けた言葉は肯定で返された。

 でも、私はヒロトと会いたかったから、丁度良かったよ。

 なんてさらっと言えるほど私は素直じゃないから、それは胸の中にしまった。始業時間まであと、10分程。



【時間よ止まれ】




 20111116 ayako,i

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