とど、かない。目いっぱい背伸びするが、どうしても。
 溜息をついて棚の上を見る。放課後、先生からの頼まれ事だった。たまたま通りかかったのだ。職員会議を控えていたらしい理科教師の彼は、すれ違い間際の私をひっ捕まえて、理科室から職員室へ備品の移動を命じたのだった。

「それにしても、もう少し色々考えてほしいんだけど…」

 もう少しで届きそうなダンボール箱を睨み付ける。椅子は使ってるんだ、椅子は。でも届かない。
 もう一度、背伸びをして手を伸ばす。ああもう、もっと背の高い男子とかに頼めば良かったじゃないか先生のばか!
 悪態をついたその瞬間だった。ぐらり、体が傾ぐ。あ、落ちる。冷静に思った、その時だった。

「危ないだろう」

 微かに背中に痛みがはしって、それからのぞきこむように私の顔を見ていたのは、霧野だった。

「な、んで」
「ノート忘れて取りにきた」
「あ、そう…」

 そこでようやく気付く。霧野が私の背中を支えるようにして膝をついていた。思ったより近いな、なんて他人事みたいに思いながら問う。

「もしかして、」
「危なっかしいにもほどがあるぞ、お前」

 苦笑混じりに体勢を戻してくれる霧野。ありがとう。いや、怪我は? その言葉に首を振る。

「で、あれ取ればいいんだな?」

 視線の先にあったのは、さっきまで私が取ろうとしていたダンボール箱だ。うん、頷くや否や、霧野は倒れた椅子を戻して上にたった。

「ちょ、霧野!」
「お前にやらせると危ない」

 ひょいと取って、椅子から降りる。どこに運ぶんだ? 職員室、だけど。そうか、そのまま理科室を出ようとした霧野を慌てて呼び止める。

「え、いいよ! 私やるからっ」
「いや、結構重さあるし。お前コケそうで怖い」

 失礼な! あからさまに怒る私を一笑してから、霧野は、窓側の前から三番目、と言った。首を捻ると、ノート、と端的に告げられる。
 そういえば、彼は忘れたノートを取りにきたと言っていた。

「そのまま部活行きたいんだ。持って職員室まで一緒に来てくれよ」

 言うが早いか、彼は教室を出ようとしている。手早く指定された席からノートを取り、霧野を駆け足で追う。逸る鼓動に、気付かないフリをしながら。
 その時から、私は徐々に落ちていたのだと気付いたのは後の話。


【 Fallin' 】


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 20120205 ayako,i




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