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 虎徹と向かい合わせになるように彼の膝を跨いだバーナビーは、少し低い位置にある彼の髪へと鼻先を埋めた。シャワーを浴びていないから、いつもの整髪剤と香水の香りに混じって男の汗の匂いがする。
 これが社内で声をかけてくる名も知らぬ男のものなら思いきり顔をしかめているところであるが、虎徹のものならば寧ろ興奮する。シャワーを浴びる余裕もなしに自分を求めてくるということがこんなにも幸福だなんて、バーナビーは知らなかった。
 じれったい手つきで可愛らしいルームウェアのジッパーをおろした虎徹は、現れた真っ白な谷間に早速顔を埋めた。
 大きく息を吸い込むと、バーナビー愛用の甘ったるいボディソープの香りに虎徹から移ったムスクの香りが上乗せされて興奮の度合いが高まる。頭上から「ひっ」とか「はぅ」とか聞こえた気がするが、声にまで気をやっていたら理性がもたない。可愛いかわいい仔兎はとろとろになるまで煮詰めて、それからそっと牙を立てるのが一番おいしい食べ方だ。
 背中を這い上がる節くれだった手が中腹辺りで動きを止めた。人差し指1本でもって下着を支える1点を何度もなぞる。その留め金を外すわけでもなく、かと言って諦めるわけでもなく、ただそれを何度もなぞるだけ。
「っ……っん、……ん…」
「背中、くすぐったい?…本当どこもかしこも敏感だなーバニーは」
 布越しと言えど、意図して刺激されれば誰だってその気になってしまう。意地悪な男の言葉を否定するように必死に声を殺しながらバーナビーは虎徹を睨んだ。いくら背中が弱点といえど、そこだけでは満足できない。
「腰、揺れてるよ?」
 無意識のうちに揺れていた腰を捕らえられてバーナビーはハッとした。そんな。はしたない。
 熱を持った手が左右の腰骨を掴むようにして腰を固定している。そのままぐっと彼の太腿に秘唇を押しつけられる。
「…ッ!?」
 くちゅ、と湿った音が響いたような気がしてバーナビーは音が鳴る勢いで顔を赤らめた。心臓がドクドクと脈打っているのが聞こえる。虎徹にも聞こえてしまうかもしれない。恥ずかしい。こんな、こんなことって。
「どしたの?今、いきなりドキドキって………あーあ、こんな所まで真っ赤」
「っ、ひゃ」
 顔から首、鎖骨を通って胸元まで赤く染まった肌を、彼の利き手がつついた。それだけでもピクン、と体が反応してしまう。過敏すぎるそのリアクションに、目前に迫った虎がにんまりと口の端を持ち上げる。
「もうスイッチ入っちゃったのかーバニーちゃんは」
 演技がかった口調で虎徹は謳った。呆れを滲ませようとしたであろうその台詞には存分に喜色が浮かんでいる。
「じゃあ俺も…そろそろご相伴にあずかろうかな」
 バーナビーの眼下には、鋭い牙を存分に研いだ雄の虎が1頭、罠にかかった仔兎を仕留めるべく舌舐めずりする姿があった。


 白いシーツの上にすっかり裸になった肢体が転がっていた。サイドランプの柔らかな光が白い肌を官能的に照らし出して、虎徹は思わず息を飲む。何度見ても蠱惑的な肉体だった。
 柔らかな二つのふくらみを支えていたブラジャーは、既にベッドの下に転がっていた。今日は虎徹の家に泊まるから、ピンクの花柄。カップは浅めで、縁に薄いブルーのレースがあしらわれている。

 服には頓着しないバーナビーが唯一興味を見せる衣類が下着だった。「下着くらいは女性らしく、あなたの好みの物をつけたい」と虎徹に泣きついたことは記憶に新しい。
 ヒーローという職業柄、いつなんとき出動要請がかかるか分からない。時にはヒーロースーツなしでの出動もありうるから、動きにくい服装はできない。必然的にパンツスタイルが多くなり、スカートを履く機会は減っていった。
 虎徹は「それでも十分魅力的」と言ってくれるが、それでも不安になってしまうのが乙女心というものだ。
 そこでバーナビーが目をつけたのが下着だった。よほど派手なデザインでなければ動きが妨げられることはない。働く女性の多い今日であるから、デザインと機能性を兼ね備えた下着は、探せば山のようにある。
 クロゼットにかかっている私服は両手で抱えられる程度の量しかないバーナビーだが、しかし彼女のランジェリーボックスはぱんぱんに詰まっていた。3段ある引き出しの一番下に入っている物は全て未使用品だ。
 虎徹と肌を合わせる時にはなるべく見せたことのない下着を、それも女性らしさのあるものを、と心に決めている。だから3段目にはピンクや白の花柄やレース、リボン等々、世間一般でいうバーナビーの「スタイリッシュさ」からはかけ離れた世界が広がっている。
 愛する恋人のために、バーナビーが作り上げた世界だった。


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