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「ちょっとハンサム」
トレーニングセンターのシャワールームを出た廊下でバーナビーは洗い髪をかきあげ立ち止まる。
声の主・ファイヤーエンブレムが片手に仰々しい箱を抱えてゆっくり近づいた。
「……何ですか?」
「アンタ確かワイン飲むわよね?」
「ええ。甘めのロゼが好きですね」
「そう、丁度良かったわ」
目を細めて笑顔を作り、その箱を押し付ける。
「これは……?」
「ウチのお店に置こうと思ってね。でもアタシロゼはイマイチね。
だから味に煩い人間に飲んでもらって感想聞こうと思ってたの」
箱に書かれた文字を見て、バーナビーは驚愕した。
「ファイヤーエンブレムさん……これ、稀少品種の……!」
「そうみたいね。ま、ちょっと飲んでみてよ」
まるで1本10ドルの安物ワインを渡す様にあっさりとバーナビーに託した。
「い、いいんですか」
「モニターだからね、ちゃんと味わって頂戴」
「俺も飲むぞ〜」
ファイヤーエンブレムが立ち去ろうとした瞬間シャワールームのドアが開き、
バーナビーの後ろからいきなり虎徹が現れ暢気な声で会話に加わる。
「やだ、いたの?」
「俺だってトレーニングの後はシャワー位するさ。
心配すんな、俺も酒屋の息子だ。酒の味にはうるせえぞ」
「アンタには焼酎も日本酒もシャンパンもサイダーも一緒でしょ!」
「んだと?こう見えても利き酒の虎徹って言われてんだぜ」
「んもう、ハンサム!何とか言って……」
既にバーナビーの姿は無く、少し奥のロッカールームから軽快な鼻歌が聞こえてくる。
暫し二人で呆然とその様子を聞いていた。
「あいつがあんなに浮かれるなんて……すげえ高級品とか?」
「値段はそうでもないんだけど、小さな農園が独自で作ってる品種でね、出荷本数が少ないの」
「おぉ、そうと聞いては黙っちゃおれねえ!バニー!俺もお前んち行って飲むぞ!」
バーナビーに続き虎徹も駆け出した。
「ちょっとアンタ達!これモニターなんだからね、判ってるんでしょうね!」
その声は二人に届いていなかった。
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