1




「セフレでいいんで僕と付き合ってください」

積もりに積もった恋心を伝える術など、20年間両親の仇を討つために生きてきたバーナビーが知る由もなかった。
そもそも伝えるつもりもなかったのに、ふと気付けば前を行く虎徹のシャツの袖を引っ張っていた。
彼は振り向いて一寸目を瞬かせた後、優しく微笑んで首を傾げた。
散々躊躇した挙げ句に頭が処理能力の限界を超えた結果が先の言葉だった。

「……えーと…バニー、今なんて…?」

虎徹は何とも居心地が悪そうにしている。
それも仕方がない。自分ならば呆れて何も言えないに違いない。
実際、バーナビー自身も何故こんな事を言ってしまったのか分からない。恥ずかしくて死にそうだ。
二人の間に無言の時間が流れ、ややあって虎徹が真剣な表情で問いかけてきた。

「あのさ、お前…セフレって何だか分かってるの?」

言ってしまったからにはバーナビーのプライド的にもう戻れない。
どうせ伝えるつもりも叶うはずもない想いだったのだ。
いっそ当たって砕け散ってしまった方が清々しい。

「……ええ。体だけの関係って事でしょう?」
「分かってるなら何でそんな事言うんだよ」

虎徹が眉を顰める。
もう駄目だと直感的に悟った。それでも何故か続きを言うのを止められない。

「うるさいです、おじさんには関係ないでしょう」
「いやいや関係あるからな?俺バニーとそんな関係になるの嫌だぜ」

否定の言葉に胸に針で刺した様な僅かな痛みが走った。
思わず口調も鋭いものになる。

「なんでですか」
「何でって…そりゃお前と俺は心で繋がった相棒だろ?それで充分じゃねえか」

違う、と首を横に振る。
言ってはいけない、そう強く思ってもやはり言葉は止まらなかった。

「…それじゃ嫌なんです…」

虎徹はひどく悲しそうな顔をしている。
また突き刺す様な痛みを感じた。こんな顔をさせたい訳ではなかった。
口を噤んだままで俯いていると虎徹がバーナビーの頭を撫でた。

「…わかったよ。お前がそんな顔すんなら仕方ねえな」
「……え」

頭のセットが崩れる、といつもなら気にするが今はそれどころではない。
視線を上げれば少し下の彼の目線とかち合って、琥珀色の瞳に吸い込まれそうになった。

「まぁ俺男とは…その、経験ねーし…色々分かんねえけど…」
「いっいいです!というか僕だってないですよ!」

苦い顔の彼の言葉にバーナビーも慌てて弁解する。
決して男とセックスがしたい訳ではない。
虎徹だからしたいのだし、そもそもセフレになりたかった訳ではない。
しかしこの際身体だけでもいい。この人と繋がりたい、そう思った。

「あ、ごめん一つだけ条件をつけても良いか?」
「え?は、はい。何ですか?」

何を言われるか戸惑いを隠しきれないバーナビーに、虎徹は実に楽しそうに言った。

「セフレでいる間は俺と同居すること!」
「……え。ええええ!?」


prev next

 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -