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「えーっと、最後はバーナビーさんの部屋でーす。そーっとね、ブルーローズさん」
「わかってるわよ、あんたこそその声のボリュームなんとかならないの」
カードキーをすっと通すと差込口の点灯が赤から緑に変わり、そのまま取手を回すとくとドアが簡単に開いた。
ライトを持ったドラゴンキッドが先に入り、ハンディカメラを構えたブルーローズがそのあとを追う。
「バーナビーさんは電気を消して寝る派みたいです〜」
リポーターのような口調を真似して小さな声で説明していくドラゴンキッド。
つい30分前には彼女ががこっそりと部屋に侵入される立場だった。
そしてその10分後ぐらいにはブルーローズが。
寝起きドッキリというありきたりな企画であるが、ふたりとも素性がばれてはいけないため前日からこのことは知らされていた。
髪は元に戻さないように。露出は少ない服で寝ること。ブルーローズはすっぴん風メイクで寝ること。
これでどっきりと言えるのかはわからないけれど、テレビ的には寝顔が抑えられればそれでいいらしい。
そして、わかっていたとは言え、そんな起こし方をされたら誰だって新鮮なリアクションになる。
すでにふたりともばっちりな画が撮れていた。
そして最後はバーナビー。
ドラゴンキッドが面白がってブルーローズに、一緒に起こしに行こうよと提案したのをきっかけにリポーターとカメラマン役を交代したのであった。
「ねえ、このベッドライトつけても大丈夫かなあ」
「これだけシーツ被ってたら起きないわよ、つけちゃお」
真っ暗な部屋の中、バーナビーは頭の先まですっぽりとシーツを被って寝ている様子だった。
ベッドのすぐ横にある間接照明をつけると、部屋にオレンジの光がぽうっと灯る。
「見てー花びらが、あ、ここにも。バーナビーさん女優さんみたいだね」
「どれー?ほんとだ、あとでお風呂も覗きましょ。ワイン風呂とかやってそうじゃない?」
くすくすと小さな笑い声を抑えながら、ブルーローズは花びらを撮影するために回り込んだ。
そして、なにかを踏みつけてしまった。柔らかい感触がして、バーナビーの洋服を踏んでしまったのだろうかと急いで足の位置を変える。
「ぷぷ、バーナビーさん足出したまま寝てる〜」
踏んでしまったものを拾い上げたブルーローズはそれを見て、思考と体が固まった。
ドラゴンキッドはそのまま進行を好きなように進めている。
「ブルーローズさん、カメラカメラ!バーナビーさんは、足の裏にホクロがあります〜」
「え、ちょっと、待って」
「こ〜ちょこちょこちょ〜」
もぞもぞとシーツの中に逃げていく足の裏。
ドラゴンキッドはそのまま足を追いかけ、爪の先を細かく動かし続ける。
「起きちゃうかな?こ〜ちょこちょこちょ」
「だっ!!!!」
バサッと勢いよくシーツが起き上がったかと思うと、そこには何故かバーナビーではない同僚の姿が出てきた。
しかも、何も身に着けていない状態で。
「きゃー?!!」
「?!えっ??タイガーさん??」
「はえ??お前ら、なんで?え??」
「バーナビーさん、タイガーさんになっちゃったの?!」
足の裏の違和感に目を覚ました虎徹の前には、何故か見知った顔がふたつ。
訳が分からないことを言っているドラゴンキッドと、拾い上げたハンチングで顔を隠しながら叫ぶブルーローズ。
「や、バニーならここに、っていうか、えっ何これ??」
虎徹が向く方に同じように視線を向けると、シーツの先から明るいブロンドの毛先が見えた。
けれどそれだけでは分からないので、思い切ってシーツに手をかけた。
「ぎゃー!!!」
「うわああっなんで、バーナビーさんも裸なのっ?!」
「えっ??だからっお前たち一体何なんだよっ!」
動揺しながら捲れたシーツをバーナビーにかけ直す。
どうしてこんな状況でまだ眠り続けられるのかが不思議だけれど、いま起きたところで何も良いことはないだろう。
三人とも混乱している中で、部屋のドアが強く叩かれる。
叫び声を聞いたアニエスたちのようだ。スペアキーはブルーローズが持っていて中に入られないらしい。
このままでは大ごとになってしまいそうな気配がして、虎徹はみんなを宥めるようと立ち上がる。
「なあ、ちょっと落ち着こうぜ」
「出てこないでよ!変っ態!!!」
「こっち来るなあー!!!」
部屋の中からガタガタと音が鳴り、心配になったアニエスはとうとうドアを突き破ろうかとしていた。
廊下からブルーローズの持つカメラを通じて映像を見ていたけれど、
途中でベッドの上の花びらを写してからカメラを落としてしまったらしい。
そしてその直後の叫び声。
彼女たちに何かあったら、そう思うと気が気ではなくて大柄のスタッフにドアを破れと指示しを出す。
すると、何度も強く叩いていたドアが簡単に開き、中から怒った様子のブルーローズとドラゴンキッドの姿が現れた。
「あなた達!大丈夫だったの?!何があったの??」
「知らない!あんな奴!」
「バーナビーさんは起きなかったから中止!部屋に戻ろうブルーローズさん」
すたすたと歩いて行く彼女たちの様子を見て、もしかしてとアニエスの女の勘が働いた。
小さな声でドラゴンキッドに訊いてみる。
「もしかして、どこぞの虎が潜り込んでいたかしら?」
「ボクたちでやっつけておいたから」
にっこりと愛らしい笑顔を残したまま、ドラゴンキッドはブルーローズの後ろに続き部屋へと戻っていった。
その頃虎徹は、氷漬けと稲妻の攻撃をくらってぼろぼろの姿で気を失うように再び眠りについていた。
目が覚めてから、アニエスに死ぬほどタダ働きされるなんて夢にも思わずに。
Many happy returns of the day!!
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