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アニエスがグロスを忘れていったことに気付いていたバーナビーは、いつ彼女が忘れ物を取りに来るかと少し冷や冷やしていた。
ひとりで慰めていたことなんてばれるのだろうか、とうっすらと頭で考えながら寄りかかるようにドアを開けた。
「Happybirthday! my Li'l bunny」
「・・・・・・・・・・・・・は?」
「は?じゃねえよ、ってかこんな格好で出てくんなよなー」
ドアを開けるとそこには薔薇の花束が、視線を上げると虎徹の姿があった。
ぽかん、と驚いているバーナビーを他所にとりあえず部屋に入れて、とぐいぐいと入ってくる。
押し付けられるように花束を受け取り、そのままふわりと柔らかく抱きしめられた。
「びっくりした?」
唇に音を立て、そのままの近さで虎徹が尋ねる。
けれどもバーナビーは固まって答えることができない。
びっくりしたどころではなく、意味がわからないし状況に追いつかない。
なぜ?ここに?さっきまで電話の向こうで、シュテルンビルトにいるはずだったのに。
「仕事終わって、車飛ばして、下に到着した頃にお前電話かけてくるんだもんなー。
車の中で長電話、さみしかったなー」
「っな?!下に着いてたなら、すぐ上がってきたらいいじゃないですか!なんでっ」
「まあまあまあ、しかしいい部屋とってんなー」
これだったら声我慢しなくても大丈夫かもな、虎徹がいやらしく口の端を上げる頃にはいつの間にかバーナビーはベッドまで運ばれて、
その柔らかな金糸がシーツの上に広がっていた。
ハンチングと花束をベッドの端に置き、節の太い指がネクタイを緩める。
その仕種を見ただけで体の奥がきゅんと疼いた。
「・・・誕生日、忘れてた?」
「すっかり、忘れてました」
短い針が12の上で、長い針が少しずれたばかりだった。
これを狙っていたんだと思うと、なんて憎くて愛しい演出なんだろうと胸がいっぱいになる。
上の服を乱雑に脱いだ虎徹が覆いかぶさってきて、初めてでもないのに心拍数が跳ね上がった。
「まあ誕生日じゃなくてもあんな声聞かされたら飛んできてたかも」
「なっ、そもそも虎徹さんがっんっ」
小さな訴えは虎徹の唇に飲み込まれていく。
唇から、指先から伝わる体温が心地よかった。
ここに来てくれたことが夢のようで、存在を確かめるようにきつく抱きしめる。
そうすると同じように強い力で逞しい腕に包まれた。
「久しぶりだからがっついちゃうかも」
「っ・・・お好きにどうぞ」
やわらかく笑顔を零すバーナビーにつられて、虎徹の頬も緩む。
そして会えなかった時間を埋めるように、何度も何度も口づけを交わした。
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