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『やわらかい?』

「・・・はい。」

『肌の感じは?すべすべしてる?』

もしかして虎徹は本当に自分の肌を忘れてしまったのだろうか、と不安になる。
バーナビーは何度口車に乗せられようと、虎徹が言うことに関しては疑うことを知らなかった。
恋は盲目とはこのことだろう。

「エステ、行ってきたんですべすべですよ・・?」

肌荒れひとつないなめらかな肌にゆっくりと指を滑らせる。やはり誰かの手を借りると、自分で手入れするよりも肌の調子がいいなと改めて思った。
「虎徹さんにも触ってほしかったです」
誘うわけでもなく、ただ純粋な気持ちでそう呟く。
肌触りのいい毛布やラグなどを撫でて気持ちいいと感じるように、虎徹さんも触ってみて、と単純な気持ちが洩れただけだった。

『な、目瞑って』

「はい?」

何かあるのかと思い、素直に言うことを聞いた。
瞼を閉じ、右手で携帯を持ったまま、左手は胸元。
その状況で再び、目瞑った?と聞かれてまた返事をする。

『バニーの手、俺の手だと思って』

真っ暗な視界の中で、虎徹の言葉を心の中で復唱する。
バニーの手、俺の手・・・?

「えっどういう」

『いいから、とりあえず下着の上から揉んでみて』

「揉っ、はぁっ?」

『もしかして、俺の手わすれちゃった?』

挑発的な、そして甘みを含んだ低い声にあてられる。
いつも包んでくれる大きくて温かい手を忘れるわけがないのに。
虎徹の指は節が少し太く、けれどもすらっと長くて、男の人の中では綺麗な手をしていた。
しかしヒーローとして戦ったり、重いものを持ってくれたり、ただ綺麗なだけじゃなく男らしい味のある手。
もちろん年齢は重ねているし、手入れなんてしない性格だから指先がかさついていることもしばしばある。
けれど、そんなところもバーナビーのお気に入りだった。

「忘れるわけないじゃないですか」

手の甲にうっすらと浮く血管も思い出せるぐらいなのに。
そう思っていると「じゃあ、俺の触り方は?」と聞かれる。

喉が鳴る音を、性能の高いこの携帯は伝えたのだろうか。
虎徹の手を、指を思い出してしまった今、触り方なんて容易に思い出せる。
いつも、やわらかく舌を絡ませながら服を脱がされ、ゆっくりと下着の上から胸の形を変えられる。余裕のある手つきに比べて、漏れる息だけが熱かった。
そんなことを思い出していると、体の芯に小さく熱が生まれた気がする。
それを誤魔化すように、しらない、と返事をした。
じゃあ一緒に思いだそっか、甘い誘惑が差し出される。
いつの間にか引きずり込まれた、濃密な雰囲気にバーナビーは何も言えなかった。


「・・・・・」

無言で虎徹の言うように手を動かしてみた。
最初はびくり、と反応してしまったけれど、やはりどうも思わない。
下着の上からゆっくりとふにふにと手の平を当ててみた。
結局誰にも見られていないのだ、と思い切って指先を胸の形に添え弱々しく揉んでみる。
ちょっと大きくなったかも、と思うだけで、快感なんてちっとも得られない。
そうしながらも、ちゃんと触ってる?どんな感触?といちいち虎徹が聞いてくる。

「あの・・・・やめません・・・か?」

『まーだだーめ、ちゃんと俺の事思い出して』

思い出すも何も、手の大きさが違うから再現なんてできない。
一度ため息をついて、再び虎徹との情事を思い出した。
ゆっくり、円を描くように揉みしだくその手の動きを思い出して、携帯を枕と耳の間に当て両手を自由にしてみる。
両手で自分の胸に触れ、中央に寄せてみた。
虎徹はここに顔を埋めるのも好きだったな、と思い出すと少し気持ちがほぐれる。
そのまま虎徹の手を思い出しながら、やわらかい胸の形をぐにゃりと変えていく。
僅かに息が上がっていることにバーナビーは気付かなかった。

「・・・・ん・・・ぅ・・・」

『気持ちい・・?』

「ん、まだ、そんなに・・・」

『んーじゃ、左の肩ひも落とせる?』

指示されるままに、右手で左の肩ひもを落とした。
次は右も、と言うとおりに細い肩に指を伸ばし、滑らせる。
そして次の指示がまた耳に響き、少し背中を浮かせ自らの手でホックを外した。
締め付けがなくなり、胸が少し楽になる。

『ちょっとブラずらして、で、さっきと同じように揉んでみて』

小さく返事をして、おずおずと胸に手を当てる。
下着の上からだと少しごわつきがあったものの、直で触ってみるとあたたかくて感触がよりやわらかい。
言うとおりに、同じような手の動きを繰り返した。
ぴくり、体の変化に気付いたけれど虎徹には何も言わない。
けれども、息が上がって少し声が漏れていたことにも、もう自分で気付いていた。



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