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「もう無理です。限界です」

『んなこと言うなって〜』

「無理なものは無理なんです」

一度へそを曲げてしまったバーナビーの機嫌を直すのは、虎徹の手にかかっても簡単なものではない。
とくに今の状態は、過去のご機嫌斜めランキングの三本指に入る程ふてくされていた。

いつもならひたすら話を聞いてやりながら、ふわふわと揺れる金糸を腕の中に閉じ込めてやる。
そうしながら柔らかく相槌を打っていると、眉間に寄っていた皺がみるみるうちにゆるみ、吊り上っていた目尻も徐々にとろけていく。
例えばそれが会社に対する愚痴であれば、ぎゅうとしがみ付いてくるバーナビーに「がんばったな」と頭を撫でてやるし、
それが二人の間の喧嘩であったとしても大した違いはない。
「まだ許してないんですからね」と悪態を吐きながらすり寄ってくる肩を抱きしめれば、それが仲直りの糸口になったりしたものだ。
こんな簡単にほだされてしまって大丈夫かと思う時もあるけれど、バーナビーは虎徹に甘えたいがために愚痴を零すときもある。
それにすぐに機嫌が直ってしまうのは相手が他でもない虎徹だから。
他の人にはそれこそ文句の一つの漏らさず、心も開かないだろう。

それほどまでに虎徹に溺れているバーナビーに手を焼いているのは、今その細い体を抱きしめることが出来ないから。
空しいことに、いまふたりを繋いでいるのは目に見えない電波だけだった。

バーナビーは女性ヒーロー組の撮影で、シュテルンビルトから離れたリゾート地へと出張になった。
そうなるとシュテルンビルトの平和を守るのは普段より大変になってしまうのだが、そこは残った男だらけのヒーローの腕の見せ場。
スカイハイなんかはここぞとばかりに人気を独り占め状態にしていたし、出張に招集されなかったファイヤーエンブレムは憂さ晴らしするようにポイントを稼いでいた。
そうしたヒーローたちが汗水流している間、
バーナビー、ブルーローズ、ドラゴンキッドの三人は写真集撮影のためにリゾート地へと連行された。
こんなのヒーローの仕事じゃないと三者三様に抗ったけれども、スポンサーの意向と言われると断ることができなかったらしい。
所詮雇われの身なのだ。

そんな中、彼女たちが普段のような会話をしながらただ食事をしているというだけのちょっとしたおまけ番組がヒーローTVのエンドロールで流れた。
するとそのシーンが本編よりもはるかに視聴率をとったらしい。
その結果をアニエスが見逃すわけがなく特番を作ると言い出し、三日で終わる出張が一週間に伸びてしまった。

『でもーあれだろ?今日と明日はオフだろ?』

「オフなんか要らないんです。そんなことより早く帰りたい」

『って俺に言われてもなあ・・・そうそう行ける場所じゃねーんだから、そんなこと言うなって、な?』

今日だってなかなか楽しめたんだろ?と話を逸らすように聞くと、今日は女四人でひたすらショッピングを堪能したらしく、
その話を聞いているだけでアニエスとブルーローズに振り回されるバーナビーとドラゴンキッドの姿が容易に想像できた。
その後には名店のフランス料理を食べに行き、最後にスペシャルコースのエステを体験した、と虎徹が思っていたよりなかなか充実しているオフのように思えた。

「まあ、エステは疲れが取れましたけど・・・全然ゆっくりできる時間なかったんですよ」

まんざらでは無さそうなものの、やはり語気の強さと文句は止まらない。
遠い地へ行ってしまっても電話があるから少しの間ぐらい大丈夫だろうと言っていたけれども、思うようには連絡が取られないでいた。
とある日はバーナビーが疲れてそのまま寝てしまったり、
また体力の残っている日には部屋にブルーローズやドラゴンキッドが遊びに来てしまったりと、なかなか連絡をとる時間が作れない。
過ぎた五日間の中で連絡がとれたのは、テレビ電話1回、ものの5分の電話が1回、
そして毎朝のメールが計5回と、日ごろ常に隣にいる恋人にしては寂しい頻度になってしまっていた。



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