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数百年前、まだ京楽が平隊士として現世任務についていた時があった。

京楽は他の隊士と交代して休憩がてら一眠りしようと見晴らしの良い高台に来た。
そこは、一つのベンチの他には何も無いだだっ広いただの空き地と言っても良いような場所で、景色は良いものの何時人が居なかった。
そうは言えども、京楽は死神。
喩え人が居たとて別に差し支える事なはにも無いが、気分的にどうしても人気の少ない静かな場所を選ぶ癖が抜けずに、たびたび此の場に足を運んだ。

今日も何時もと同じ様に足を運んだ。
その場所の入り口から入ろうとしたところで、丁度先客が居るのが見えた。
艶やかな黒髪の若い女。
儚げな雰囲気というものを漂わせているが、妖艶といえば…最も近い雰囲気だった。
相手が同じ死神だったらすかさず声を掛けただろうが、人間だったので声をかける事すら出来ない。
京楽は大人しくその様子を窺った。
そして何より特徴的なのは、京楽が見た事も無い楽器のようなものをもっていた事。
三味線とも違う四本の太さの違う弦を持ち、これまたバチとは違う棒状のもの。
なにより楽器本体と思われるものが非常に特徴的で、言うなれば…ひょうたんのような形。
棒状のものはともかくとして、ひょうたんのような形の楽器本体は非常に大きく、十やそこらの子供ほどの大きさだった。

学院でも現世の授業というものも多少あったが、必要最低限の事にしぼられているし、目紛しい現世の技術の発展に教科書が追い付かなかった。
その他の情報源といえば、先に現世任務についた仲間たちから口で伝えられる情報のみ。
音楽や美術など、そんな娯楽の分野に入るものにはあまり目は向けられないため情報もあまり入ってこなかった。
気になっても、直接聞く事は出来ない。
だからこそ京楽は増々もってその楽器の様な物が気になった。
どんな音がでて、どんな弾き方をして、どんな曲を奏でるのだろうかと。
眠るのはやめて暫く見てみようと、入り口に突っ立っていると、不意にその女が顔をあげて京楽の方を向いた。
まさか人間に此の姿が見える訳が無いと京楽は同じ姿勢のまま立っていた。

「そんなに見つめないで。
 気になるから」

京楽は自分の他に誰か居るのだろうかと思って周囲を見回したが、特に人影が見当たらず、ぎょっとした。

「…もしかして僕に言ってる?」

恐る恐るそう問うと、女はこくんと首を縦に振った。
よほど霊力があるのだろう。
京楽が歩み寄って向かい合って立つと、女は京楽の風変わりな格好をじっと観察した。
現世ではもう腰に刀を差すような時代は終わったし、現世の人間から見れば死覇装だって少し違和感を持つ。
下から上までじっくり見終わって、その視線が京楽の顔にいって目が合うと京楽の方から口を開いた。

「良く見えたね?」

「…やっぱり人間じゃないのね」

京楽はその問いに隠す事もせずに「アタリ」とにっこり笑っていった。

「武士の幽霊?」

「いやあー…そんなもんじゃないよ。
 死神っていって…信じる?」

「死神…?
 私の命でも狩りにきた?」

「いやいや。
 僕が狩るのはもっと別なものだから、心配しないで。
 あれ、けど信じちゃうの?」

「別に信じている訳では無いわ。
 現に私の前に立ってるあなたが既に人じゃないものだから、人じゃないものには人じゃないものなりの世界があってもおかしく無いわ」

「寛容。
 面白い事言うねえ」
 
「そうかしら。
 自分が知らない事が、即「否定」に繋がるかと言ったら…強ちそれだけじゃない。
 限りな胡散臭いけど、無い事も無いかもしれない」

「そうだね。
 僕もその考えは正しいと思う。
 なかなか君とは気が合いそう」

「…それは…ありがとう」

「僕は京楽春水。君は?」

「…凄い名前…。
 私は名字名前…」




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