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時々本気で自分を信頼出来ない時がある。
有り得ない事を立て続けにやらかした時とか。











「うっ…」


重い頭を上げて、暖かい布団から上半身を出した。
見慣れた部屋。
窓の外を見ると、朝焼けなのか、夕焼けなのか。赤色をしている。


「何時…かえって来たんだ…わたし」


とりあえず、家までかえってきた記憶が無い。
覚えてるのは、舞台袖で死んだ様に寝ていたとこまで。

(デジャヴ…)

あれほど自分を悩ませていた二日酔いは消えていた。
からだも大分楽になった。

目を覚まして起き上がると直ぐ左手の右手の壁には絶対白いチェロケースが置いてある。
朝、目を覚ましたときに直ぐに目に入る様にするためだ。
なのに。


「ない…」


今日ばかりはいつもの位置にチェロが無かった。
一瞬頭が真っ白になった。

(いやいやいやいや)

人の身長ほどもあるものはそうそうなくなったりしない。
だいたい、そんな安いものでもないしなくしやすいものでもないものがそうそう無くなるものだろうか。
急いで立ち上がって、部屋のドアと言うドアを開けまくった。
けれど矢張り無い。


「………………………………はっ?」


人間、信じられない事にあったときは頭が真っ白になると言うが、まさにこの事。

そう、そう言えば前にもこんな事があった。
あの時は、楽器をしまっておいておいたら、お昼休みに自分のケースの隣にもう一つ同じケースが並んでいたとき。
分裂した、と本気で思った。
何故か知らないが、音楽家は総じて個性的で言い方を変えればセンスが悪い。
例えば、ゼブラ柄のチェロケースや、板かまぼこのピンクの部分を連想させるようなビビットピンクのチェロケース。
それでなければオードソックスな黒やらワインレッドやら。
兎に角、真白なケースを使っているものが居なかったから本気で分裂したものだと思った瞬間、脳味噌が停止した。
種を明かせば、実際は遅れて来た浮竹さんの新しいチェロケースだった。

今回ばかりはそんな事も越すほど、驚きの事態だ。
なんせ、自分の商売道具、むしろ分身とも言える楽器が無いのだ。
音楽家としてあるまじき事態。

2回も連続して記憶を保ってない上に、こんどは楽器を何処かに置いて来たときた。
名前は本気で頭を抱えた。

そんなとき、携帯の呼び出し音がした。
急いでそれをとる。


『ああ、目が覚めたか!!』

「浮竹さん?」

『ああ。熱下がったか?舞台袖で昏睡してたときは何事かと』

「浮竹さん。

 チェロ…私のチェロ、今何処ですか!?」



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