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(つらい…)

何が辛いのかと言えば、目の前にある楽譜を見ているのに対して。











時々どんな嫌がらせかと思うような楽譜がある。
例えば普通に弾ければ楽であろう曲にピチカートなんていう指で弦を弾いて奏でる技法が加わったりすると、弓をまたもって弾き始める準備をするまでのタイムラグで鬼畜な程忙しい曲がある。
ほかには、

(戦時中の教科書か)

一小節の間にとんでもない量の音符が詰まっていて、眼鏡を外してみたりすれば真っ黒に見えるような楽譜とか。
勿論弾ける様にはなる。
なんせこれでもプロだからだ。
けれども、この難局を如何に切り抜けて美しく奏でるか。
たかが数小節の難局でも、されどである。強ち馬鹿には出来ない。

名前は首をかくんと折った。
なんとなく集中力がもたない。
腕時計を目の前にもって来て見ると、そろそろ昼休みも半ばという所だった。

周りを見渡すと、殆ど誰もいない。
管楽器の数名やら、バイオリンの一番後ろの席とかで必死に楽譜をさらっている新入団員ぐらい。
後ろの席を見渡すが、名前以外にはだれも居ない。
そのかわり、チェロが床においてあるだけ。

そろそろ昼食を採ろうとチェロを片手に立ち上がる。
舞台袖に置いてあったチェロケースにチェロをしまって、適当にロックをかける。
荷物を持って、さあ食事に行くかと立ち上がるが、直ぐに足が止まる。

(なんかやっぱり)

全体的に気持ちが悪い。
バックの中から水を取り出してそれを首筋に当てたししながら、舞台端の影に横になる。
時計を見ると、休憩はしめて30分ほど。


「充分だ…」


カーディガンを肩にかけると、そのままペットボトルを抱いて目を閉じた。
寝れば、気持ち悪いのもやり過ごせるかも知れない。










練習再開10分前に浮竹は再び席に戻って来た。
席に戻ると、名字の楽譜が譜面台に広げてあった。
見開きで広げてあったのは浮竹ですら唸るほどの難局で、見れば鉛筆で沢山の書き込みがしてあった。
相当練習してるんだろうな、と浮竹は笑顔で一人頷く。
実際、隣で聞いていてもこの箇所は名字のほうが上手だとすら思っている。

(お、この指使いよさそうだな)

ふと目についた箇所の指使いのメモをみた浮竹は、写させてもらおうと周囲に名字を探したが見当たらない。
何時もは10分前にはこの場に居る筈なのに、居ない。


「名字知らないか?」


直ぐ後ろを振り向いて、楽器をとりに行く途中の藍染に声をかけるが思ったような返事は返ってこ無かった。
しかたなく舞台袖に行って名前のケースを見ると、中には楽器が入っていた。


「どうしたんです?」

「名字をしらないか?みあたらないんだ」

「ああ、名字ならそこで爆睡してますけど?」


別パートの女が指を指した先は、演劇等で使う台が積み重なった一角。
浮竹は軽く礼を言うと、そちらに向かう。
すると、そこにはペットボトルを抱きながら丸くなってねている名前がいた。


「名字、名字。こんな所で寝ていては、」


浮竹が名前の肩に触れると暖かいというよりは熱い感触。


「…もしかして」


浮竹は名前の体を起こして抱きかかえると、その額に手を当てた。


「やっぱり、な…」


手で触れたその額は暖かく、顔もほんのり赤い。
熱を出しているようだった。

浮竹は名前を抱えてその場を立つ。
すると、先ほど名前の居場所を教えてくれた団員が他の団員と話していて、ふと浮竹の方を見てぎょっとした。
浮竹は肩をすくめた。


「藍染、藍染」

「はい」


浮竹はチェロを抱えて、座席に着こうとしていた藍染を呼び止める。
藍染も名前の様子に驚いたようだが、名前の赤い顔をみて苦笑する。


「後は、やっておきます」


浮竹が荷物と名前抱えて出口に向かうと、指揮者が譜面台を叩く音が聞こえた。
それに反応したのか、名前がうめき声を上げるのをみて苦笑した。



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