猫の休息



檜佐木が戻るときに浮竹もいったん隊舎に帰った。
名前は激しい戦闘で随分体力を消耗したからか全く目覚める気配が無かったので、起こすのもこのまま移動させるのも可哀想だという事になって、京楽が一人見張りとして残された。
今も変わらず、名前は心地良さそうに眠り続けている。

天気もいよいよ春らしくなり、この前と打って変わって過ごしやすい気候になった。
お昼近くなので太陽は真上近くに上っているし、風がふいても非常に心地のよい風だった。
丁度良い大きさの木の下の木陰に横になっている京楽ですらも眠気に襲われそうだった。
そんなとき、脇腹のあたりに何かがあたって、すこしむず痒いような感覚がした。
顔に被せていた笠を親指で上げると、名前が寝返りを打ってぶつかったようだった。
その寝顔は至極幸せそうなもの。
その表情と激しい戦闘を繰り広げ、攻撃があたらない事に悔しい表情をしていた凛々しい姿とは、簡単には結びつけられない。
事の次第を聞かされてから数週間、こうやって合間を縫って少しでも霊力を高める訓練をするうちに大分睡眠時間は減って来たようだった。
それは、並大抵の努力では済まされないような訓練の結果だった。

「よく、頑張ってるねえ」

丁度手が届く位置に頭があるので、自然と頭を撫でてしまう。
だがすぐに「しまった」と思って手を離す。
だが、無反応だったのでどうやら起こさずに済んだようだった。

名前と会ってからというものの、京楽は頭をなでるのが癖の様になってしまった。
つい先日七緒の頭を撫でてしまって何とも言えない表情をされた。
酒屋に行って酒を運んで来た女の子の頭を撫でれば「珍しいとこ触る様になりましたねえ」なんて冗談も言われた。
もう、一種の病気なんじゃないかと自分を疑う事多々。
多分、名前が嫌がらないのも癖が病気状態になってしまった原因の一つだろう。
事もあろうが、名前はにこにこしながら京楽が頭を撫でるのを静かに受けるのだ。
ただ、それだけでは済まないような…。
京楽が再び笠を顔に被せ直してため息をついた所で、名前が大きく動いた。

「んんっ…あ、れ…あ、あれ!!」

いきなり起き上がって、今の状況が何たるかを把握しようと必死になっているようだった。

「ああ、起きた?」

「わ、私…また寝ちゃった…?
 しかも練習中…ご、ごめんなさい!!」

名前は「あああ」と言いながら頭をぽかぽか叩いた。
見かねた京楽が腕を掴んでそれをやめさせる。

「落ち着いて。
 まあ、もうちょっと横になってなよ」

「……は…はい」

笠に隠れて京楽の表情が見えないからか、名前は静かに京楽の言葉に従った。
名前は京楽のとなりで、何時ものようにころんと横になるのではなく、仰向けに寝転がった。
しばらく静かにそうしていたが、やがて顔を少し動かした。

「…いっつも横になって丸くなって寝てしまうから気付かなかったのですが、葉っぱの隙間から差し込む光も、葉っぱからすけてくるひかりも、とても綺麗なんですねえ…。
 そのままの太陽の光より、こちらの方が…心地いい」

名前はまるで子守唄でも歌うような口調でそういった。
少したってから、京楽は笠を外して目線を上にやった。
京楽が仕事や七緒から逃げた挙げ句に寝てしまう時は、行き場の無い笠が顔の上にくるので、そんなものは目にも入らない。
言われて初めて真面目にみたその光景は、確かに綺麗なものだった。
だが、ついつい口からは「心地いいって…まだ眠いんじゃないの」なんて言葉だった。
それに対して名前はもごもごと「確かにそれもあるかもしれませんけど」といった。
照れ隠しなのか京楽に背を向ける様にころんと反対側に転がった。
だが、直ぐに思う出した様に「あ」と声をあげて、今度は京楽の方に向き直った。

「けど、今は横を向いても心地いい感じですよ」

「なんでだい?」

「…さっき、私が寝てる時京楽隊長頭なでましたか?」

「ああ、やっぱりアレでおこしちゃったのかい?
 ごめんよ?」

「いいえー。
 頭撫でられるのは割と好きです。
 あと、寝るのも…わりと好きです。
 好きなものと、好きなものが二つ合わさるのは、とても素敵な事だと思って…だから、いまは割と何時も見たいによこになって寝るのも好きです」

名前が眠気まじりだからか人なつっこさに加えてふにゃふにゃとした笑みを浮かべると、京楽は直ぐに顔を笠で覆って溜め息をついた。

「やれやれ。
 オジサン、君には敵わないよ」

「んん…?
 私なにかしましたか?」

こっちのはなし、と京楽は胸の上で腕を組んだ。
名前も、再び仰向けになって京楽と同じ格好をして首を傾げた。
先にその腕を解いたのは京楽の方で、片方の腕を名前の頭に回した。

「ふあっ?」

「もう少し寝てよう」

「ええっ。だって…もう少しでお昼になりますよ」

「僕も限界が来たんだ。少し寝て落ち着いてから戻ろう」

「あっ…私に付き合って練習して頂いたからですよね…?
 ごめんなさい…!!
 つい気付くと長時間…」

「うんうん。
 そんな感じだから今はゆっくり寝ようか」

京楽はこちらに名前を引き寄せると、申し訳なさに縮こまる名前に絶対気付かれない様な狸寝入りを決め込んだ。

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私が「あああ」何ですが。
打ったデータが消えて、気付いたらこんなに長い話になった。
この前の話で「話と話のあいだ云々〜」っていってたのに更に余話がづづくなんて。
ナンテコッタ。







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