∴天馬世代 「恋愛って片思いの時が一番楽しいと思いませんか?」 「…は?」 「片思いが一番楽しいと思いませんか?」 「…わりぃけど、お前が何言ってるかわかんねぇ……。」 倉間は意味がわからないと言いたげな目線をマネージャーである一つ下の後輩に向け、手に持っていた紙パックの牛乳にストローを差した。 「えー…なんでですか…。」 「なんでって、お前。恋って両思いになってこそじゃねぇのか?」 そう言えばストローに口を付け中身をずずっと啜った。恋というのは好きな相手に振り向いてもらってこそのものではないのか、そう考えていれば突然葵はそれです!と人差し指を倉間に向けた。 倉間は眉間に皺を寄せながら向けられたそれを軽く叩き下ろした。 「人に向かって指を指すな。」 「それですよ、先輩!」 「何がだよ。」 「恋は両思いになってこそですよね!」 葵はそれですよー!と一人勝手に納得し、うんうんと頷いたがその反対に倉間は何が何だかわからずイライラが増していった。 「だから何なんだよ!」 「もう…、先輩頭固いですね。」 「はぁ!?」 先ほどから自分には理解出来ないこと発言ばかりをする葵にイライラは頂点に達し、飲み終えた紙パックをぐしゃりと握り締めゴミ箱投げ入れれば紙パックは綺麗な弧を描き目的の場所へ見事入った。 「あ、先輩すごい。」 「すごいじゃねぇよ!さっきからなんなんだよ!はっきり言え!」 「先輩、短気は損気ですよ?」 「うるせぇ!」 葵はむっすりとした倉間を見るなり小さくクスリと笑った。 「先輩、片思いは一番楽しいんです。だけど両思いは一番素敵なんです。」 「…言ってる事矛盾してねぇか?」 「まぁ、ちょっとした矛盾は見逃してください。それで片思いして両思いなった瞬間が嬉しいですよね。」 「…まぁな、」 「女の子って片思いの時どうしたら振り向いてもらえるか試行錯誤するんです。」 「ふーん…」 「どうしたら可愛くなれるかとか、好きな人の好みにどうやったら近づけるかとか、そうやってる一番可愛くなれて一番楽しめるのが片思いなんだと私は思うんです!」 「へぇ、俺にはわかんないけどな、その気持ちは。」 倉間は相変わらずわからないといったように眉間に皺を寄せ、制服のポケットに手を入れた。一方葵は数回瞬きをするも直ぐにふわりといつもの笑みを浮かべた。 「倉間先輩は両思いが一番楽しいと思うんですか?」 「ああ、俺はな。」 「そうですか…。じゃあ先輩、」 葵はうーんと考えた素振りをみせれば、きゅっと靴をならし倉間との距離が10センチあるかないかまでの場所で止まりさきほどと変わらないいつもの笑みを浮かべた。 「私に両思いの楽しさを教えてください。」 知っていましたか? (私、先輩となら楽しさがわかるはずなんです) ―――――――――― ちょっとだけ捻くれ葵ちゃん。 倉葵が好きなんです。 2011.0930 |