∴天馬世代



「狩屋君はもっと素直になればいいのに。」



休憩中、葵はふいにぽつりと呟いた。ある特定の人物を見つめ。
葵は毎回毎回思う。マサキはいつもどこか素直ではないと。彼の性格上を考えれば仕方がないのだが、それじゃあ人生の半分は損をしているのではないかと。



「勿体無い…。」

「何が勿体無いって?」



そい呟いた瞬間、頭上から声が聞こえた。聞き慣れたその声の方へと葵はゆっくりと顔を上げ、苦笑いを浮かべた。



「…狩屋君、お疲れ様。」

「お疲れ、これ返す。で、何が…じゃないな。誰が勿体無いって?」

「あはは…聞いてたの?」



独り言のつもりだったんだけどなぁ、と葵は苦笑いを浮かべながらマサキから空になったボトルを受け取った。マサキは葵の隣に腰を掛けると、で?とまたも問い詰めた。



「うーん…狩屋君は素直じゃないねって事だよ。」

「素直?」

「うん。霧野先輩には素直だけど。」

「それはない。で、それが勿体無いって?」

「え、うん、まぁ…。」



今日のマサキは何か噛みついてくるな、葵は薄々そう思った。
いつもならそうかよ、と一言でばっさり切られてしまうからだ。確かに勿体無い、損などとは失礼な言葉だったと深く反省はしているがなぜもこう噛みついてくるのか。葵は疑問に思った。



「空野さん。」

「な、に?」



うーん…と頭を捻らせ疑問を巡らせていると、マサキがいきなり声をかけた。不意だったからか、葵はびくりと肩を揺らしマサキへと目線を移した。



「俺さ、少なからずもある特定の人の前じゃ素直でいるつもりなんだけど。」

「え?霧野先輩?」

「ないって言ってんだろ。」



マサキは葵の返答に対し、頭を掻き、はぁと溜め息をついた。
呆れた表情を浮かべながらマサキは葵の頬を両手で包み、自身のを近づけた。




「俺が素直でいるのは空野さんの前だけ。」




どきどき
(私だけの特別な貴方)





2011.1127


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