康太は一人教室でいつの間にか赤く染まった空を見つめた。
もうこんな時間なのに待ってろと言った本人は何をしているのか、戻ってきたら一発殴ってやる。その事ばかりが頭をよぎった。
「………殴ってやる」
「ほう。誰が誰を殴るのじゃ?」
ぼそりと口に出した瞬間、よく知る声が教室のドアの方から聞こえた。
「………秀吉」
「まさか本当に待ってくれていたとは驚きじゃの」
「………お前が待てと言ったからだろう」
「まぁ、そうなんじゃがな」
「………それより遅すぎる」
そう言えば秀吉は悪びれた様子もなくけらけらと笑いながら悪かった、と言った。
「さてと…ムッツリーニ帰るぞい」
「………は?」
「だから帰ると言っておる」
「………用があって待たせてたんじゃないのか?」
「別に用はない。ただ一緒に帰りたかっただけじゃ」
何という事だ。こいつは一緒に帰る為だけに長時間も一人でこの不衛生な教室で待たせていたのか。本当に殴ってやろうか。しかし―いや考えるのは止めよう。こいつの考えている事は深すぎて読める訳がない。
康太はすくっと立ち上がり秀吉の方へ体を向けた。
「………次からはちゃんと誘え」
ぼそりと小声で言えば自分の鞄と近くにあった秀吉の鞄を持ち、秀吉の傍へと歩みより相手の鞄を押し付けた。
(道に二つの影)(それしかないのが嬉しい)
赤い空、並んだ影